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目を凝らしても
よくは見えない
耳を澄ましても
聞き取れはしない
通りの向こう
手招きする誰か

踏み出した足元
曖昧に揺れる
掻き分けた薄暮
軽くのしかかる
通りの向こう
待ち受ける誰か

進んでも進んでも
進まない
夢の中のように

願っても願っても
届かない
幻のように

自分自身も
自信ですらも
ぼやけてしまう
黄昏の中

ここにいるのは誰で
あそこで待つのは誰か

今歩いているのは
自分か誰か

佇んでいるのは
誰か自分か

いつまでの暮れない
黄昏た通りの

向こうにいるは誰ぞ

誰そ
2007.02.13 Tue l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
迷い込んだ路地裏の
黄昏た通りの店で
見つけたの
とても素敵な取っ手

なんにでも付けられるの
窓にもドアにも心にも

真鍮で
細かい彫金の
花の模様の取っ手

しっくりと手に馴染んだ
滑らかな手触り
数多の人々が
開けて閉めてきた
この取っ手

扉を開ければ
たちまち別の世界へ

窓を開ければ
とたんに別の季節へ

心に付ければ
即座に手に取れる

迷い込んだ路地裏の
黄昏た通りの店で
見つけたの
とても素敵な取っ手

あなたの心を
開けようか
それとも
私の心を
開けようか

闇に呑まれても
知りませんよ
策に溺れても
知りませんよ

あの店の主は言ったけど

信じてるのよ
あなたの心が
私にあると

信じたいのよ
あなたの心が
彼女にないと

とても素敵な取っ手


あなたの心に付けた

2007.02.06 Tue l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
これはようこそ
いらっしゃい

夢に破れて
恋に疲れて
嘘に怯えて
真に惑って

それでこちらに
おいでになった

時に騙され
現に倒れて
声に凍えて
己に迷って

それでこちらに
お逃げになった

あなたのために
誂えたような
この品を
お買い求めにいらしたか

ここにあるのは
玻璃の箱
水晶の珠と
月の雫
それから
歌姫の声を
象嵌せしめた
類い稀なる
玻璃の箱

大事なものを
中に仕舞えば
何の不安もありませぬ

信ずるものを
収めたならば
何の迷いもありませぬ

さあさ
どうぞ
お持ちなさい

おや
何も見えぬと
お言いになるか
何も無いと
仰せになるか

形無きものに
脅かされて
こちらへきたのは

姿無きものに
慄かされて
逃げてきたのは

紛れもなくあなたでしょうに

どうぞお持ちなさい

見えぬ箱には
見えぬものを
仕舞ってしまえば
無いにも同じ

見えぬ箱でも
見えぬものでも
あると信ずれば
あるのと同じ

大事なものを
失うか否か

それはあなたの心次第
2007.01.30 Tue l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
ようこそ
そろそろ
お越しになる頃だと思ってましたよ

これは九十九年を経た布
風もないのにはためく布

とある狐の九つの尾と
地獄に垂らした蜘蛛の糸
朝焼けの綿雲と
夕暮れの絹雲
金の繭と銀の綿
それらから紡がれ
天の川で晒された布

纏えば時間を飛び越えて
老いも若きも意のままに

包めば時空を飛び越えて
あらゆる距離を一跨ぎ

愛しい人の髪の毛を
布に縫いこみ祈るなら
意中にするのも思うまま

憎しい人の名を書いた
紙を織り込み呪うなら
甚振り嬲るも好きなだけ

ただし
お一つご注意を

これなる布はもとより怪異
年月を経てなお怪異

意思を持ちたる布なれば
まずはあなたを乞うでしょう
その魂を欲すでしょう

血肉も心も吸い取って
極上の色になるでしょう

歴史も記憶も掏り取って
天上の艶になるでしょう

御せる自信がおありなら
どうぞお持ちになるといい
2007.01.24 Wed l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
おや
新年早々
いらっしゃい

なにをお求めですか
ここには
ないものは
ございません

そう
求めているのは
不安をなくす
そういう品

これは露話
巻貝の砂時計
中に満ちるは
月の涙

滑り落ちる音は
雫の奏でる話
露が齎す囁き
霧の降るさざめき

胸に寄せ
心に充ち
目頭を満たすもの
流れ落ちれば
不安とて
零れて乾いていくでしょう

ただし
お一つご注意を

露とて霧とて雫とて
満ち満ちたなら
溢れます
溢れて流れるものならば
やがて溺れを誘います

己の涙に酔わぬよう
己の悲劇に溺れぬよう

いつしか砂の時計の中に
あなたが沈んでいかぬよう

それでよければ
お持ちなさい
2007.01.02 Tue l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
いらっしゃい
最近はどうやら
お困りのお客が多いようだ

冬の夜長を
もてあまして
それでここへ
いらしたのですか

黄昏の通りに
夜の気配は
雲と散り
霧と消え
しかし
あなたの
朝には遠い

こちらにあるのは
美夢と言うお茶

本来ならば
この店で
取り扱う品では
ないけれど

寝る前に飲めば
たちまち楽しい夢の中
世にも美しい夢の中

ただし飲みすぎにはご注意を

毎夜毎晩楽しむならば
夢の毒素が溜まります
楽しい夢は楽しいままに
美しい夢は美しいままに
しかし
現実が混ざります

かつて選ばなかった
その道の先を
夢は見せてくれましょう

それは楽しく美しく
現実の方が間違いのほどに

そしてお目が醒めた時
あなたの世界は褪めまする

それでも良ければ
この冬の夜長

温かいお茶はいかがです
2006.12.16 Sat l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
おや
いらっしゃい
今日は
お客の多い日ですね

あなたは何を
お探しですか
いったい何を
お求めですか

蒼い月なら
窓の底
紅い夜なら
玻璃の泡

昏い朝なら
螺鈿の硯
脆い陽射しは
波打つ琥珀

ないものなどは
ございません

これですか
これは破緋と
申します

焔を斬り裂き
光を遮り

命の火さえ
断ち切る刀

恋の炎も
紅蓮の怨みも
全て滅ぼす刀

血の雨や
緋い霧が
瞬時に生まれ
闇に呑まれる
稀代の刀

お求めになりますか

これは貪欲
これは強欲

紅を求めて
緋を乞う

扱いきれねば
あなたもまた

刃の露と消えましょう

それで良ければ
お持ちになって

望む緋を
お斬りなさい
2006.12.10 Sun l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
いらっしゃい
おや
ずぶ濡れですね

どこも濡れてなどない
そう仰いますか
いえいえ
濡れておりますよ

黄昏の町ゆえに
あなたを濡らしているものが
雨なのか
赤なのか
判りませんがね

ただ少し
金気臭いようですね
うちの陶器たちが震えております

傘をお貸ししましょうか
それともこちらがいいでしょうか

御覧なさい
これは「濡音」という名の鈴
常は泣くように曇った音で鳴ります
これが澄んだ音を響かせるのは
ただひとつ
己よりも世界が湿る刻のみ
それも粘りつき絡みつくような刻にね

かつてこの鈴を持った者は
妙なる音を聴きたくて
類い稀なる音が欲しくて

最後には
己も黒々と濡れながら

この店の奥で眠っております
あの黒光る鞘の中身とともに
ここにお持ちになりましたよ

どうなさいますか

傘にいたしましょうか
それとも
2006.12.06 Wed l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
つてを手繰って
ここまで来たの
つてを頼って
逢いに来たの

細い細い糸
風に揺れる蜘蛛の糸
そんな細い糸を辿って
ここまで来たの

人から人へ
人ならぬ者へ
巡り巡って
ここまで来たの

朝から昼へ
夜さえ越えて
迷い迷って
ここまで来たの

黄昏の街
黄昏の人
訪ね歩いて
ここに来たのよ

つてを辿って
ここまで来たの

過去も未来も
夢も現も
混ざり混ざった
ここに来たくて

過去も未来も
夢も現も
掴み取れない
ここに来たくて

ここの名前は
黄昏通り
迷い迷って
辿り着く街

ここの世界は
黄昏通り
探し探せど
行き着けぬ街

つてを掴んで
ここまで来たの
つてを繋いで
逢いに来たの

望み求める
何かを求めに
2006.11.30 Thu l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
欲しいものは如何なるものか
何でも探して差し上げよう

占い予言の類でなくて
此処はそういう店だから

黄昏迫る店内にはただ
姿の朧な店主が一人

心許無い客の言葉に
耳を傾け品を出す

此度の客の求めるものは
此処ではない何処かへの切符

それなら至極簡単なこと
何処でも良いと云うけれど

貴方の行きたい場所へいざなう
此れなる切符を差し上げましょう

現在過去未来
夢幻それとも現

異国外国異世界までも
異郷仙境桃源郷でも

貴方が望む場所まで続く
見えぬ線路を走る汽車

貴方が願う居場所まで届く
見えぬ列車に乗る切符

もちろんひとつ注意事項を
店主は見えぬ笑いで紡ぐ

此れなる切符で乗る汽車は
三日と三晩走り続けて

その間一度でも眠ったならば
求める場所は通り過ぐ

如何なる時に辿り着くかは
貴方の運と気紛れ次第

それでも良ければさあどうぞ

心の底より何処でも良いなら
地獄も奈落も構わぬならば

此れなる切符をさあどうぞ
2006.10.26 Thu l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top