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気配がするので起きてみると
枕元に殿様がいる
いかがなさいましたかと訊くと
悋気に惑わされおぬしを斬ってしまったと言う
ご案じ召されますな、これこの通り成仏しました
そう答えて差し上げると殿様は消えた
これでよく眠れる



蜆の棒手振りをしている
おくれと声がして女が立っている
酔いどれ亭主にね、と
買って行ったが
あの女の亭主は5年も前に死んでいる
そういえば、あの女も昨年死んだのだった
桶の蜆は減っていた



夕暮れ時の橋のたもとで小僧が泣いている
どうしたのかと問えば
川に落し物をしたのだと泣く
そう深い川ではなかったので
何を無くしたのだ、探してやろうと言うと
小僧はのっぺらの顔を指し示した
おいらの顔さ



花街の話である
朝霧と名乗る女に出会った
妾と恋に堕ちておくんなんし
女はそう言って私を手招く
ふらふらと近寄ったが
触れることは出来なかった
名前のような女だった



花街の話である
昼顔と名乗る女に通った
久しぶりでありんすね
恋ひてか寝らむ 昨夜(きそ)も今宵も
そう詠ったあとで
女は花になって消えた
白い花が涙で濡れていた



花街の話である
夕凪と名乗る女が笑った
ぬしさまはご存知でありいせんね
嵐が来れば凪は泡沫
女に抱きしめられた瞬間
あっという間に溺れてしまった



指物屋をしている
鑿が滑って指を切った
作りかけの煙草盆の上に
赤い牡丹が咲いた
同時に哄笑が響いた
大店の女将さんが買っていったが
旦那の愛人に贈るらしい



袋物屋をしている
古着を解いていたら
襟から手紙が出てきた
読むと昔の女が俺に宛てた手紙だった
引き裂いて全ての袋に縫い合わせた
買っていった娘は全て
良いところに縁付いたらしい



下駄の鼻緒が切れてしまった
提灯の火も消え月も隠れた
さても困ったことかなと呟けば
もし、と背後から声がする
よければこれをお使いなさい
下駄の片方を手渡された
雲が切れて去っていく唐傘オバケが見えた



外が賑やかなので覗こうとすると
婆様に止められた
出ちゃならねぇ、あれは百鬼夜行さ
取って喰われてしまうよ
言いながら自分は楽しげに踊って出て行った
毎回自分だけ楽しそうだ
いい加減成仏してくれないと困る






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2009.07.28 Tue l 一枚の茶葉 l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

おみごと♪
2009.08.01 Sat l ちゃり. URL l 編集
お久しぶりですv

ありがとうございます。その一言が嬉しいですv
2009.08.02 Sun l あーるぐれい. URL l 編集

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