急ぎ足で飛び乗った電車は
明日行き
切符も買わずに駆け込んだ
とどまることは出来ないから
明日へ向かって走る
この列車の中で今日を探す
忘れた荷物がないように
落とした記憶がないように
車掌さん
僕の手紙を見ませんでしたか
吊り棚の上を見回して
通り過ぎる景色に目を凝らす
明日にはもう
違う月に着いてますよと
切符を切りながら車掌が言う
次の駅までどれくらい
飛んでいく電車は
明日行き
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本当はずっと
もっと上を目指していた
いつのまにか
涼しい顔で
諦めた素振りを身につけた
本当はきっと
もっと上を目指せていた
いつのまにか
訳知り顔で
繕った言葉を身にまとった
本当はもっと
もっと上を目指したかった
いつのまにか
素知らぬ顔で
そんな自分と身を別った
(2008/08/29)
どこからか
泳いでくる
ひそやかに
波を分けて
抜き手を切って
水を掻いて
どこからか
泳いでくる
すみやかに
近寄ってくる
意識の水面を
波立たせながら
抗いがたい
圧倒的なスイマー
逃げ切れずに
捉えられたら
あとはもう
眠るだけ
逆らいがたい
圧倒的な睡魔
(2008/08/28)
去年のあたしが書いた詩を
今のあたしが書き直したら
どれくらい違うだろう
五年前のあたしが書いた物語を
今のあたしが書き直したら
良くなると同時にきっと
消えてしまうものもあるだろう
十年前のあたしが描いた夢を
今のあたしが書き直したら
それでもなおまだ
そこに夢はあるだろうか
書き直したいと思うこともあるけれど
書き直せないだろうと思う
昔のあたしたち
君は僕のもの
もっと啼いて
もっと煽って
夏の終わりを遠ざけるほど
君は僕のもの
もっと悶えて
もっと叫んで
腰を震わせ誘ってみせる
君は僕のもの
だからおいでよ
ここにおいでよ
刹那にも似た恋をしようよ
夏の終わりの林の中で
恋を求めて鳴く蝉の声
古ぼけたラムネの瓶の
泡の底に眠る金魚
こども達も来なくなった
はやらない駄菓子屋の片隅で
時折目を覚ましては
瓶の口を塞いだままの
青い地球を尾びれで撫ぜる
店先の乾いた道沿いに
錆びちゃけた陽射しが降り注ぐ
寝ぼけまなこの仔猫が通り
瓶の金魚ににゃああと啼いて
揶揄い半分に尻尾を揺らし
驚く金魚が泡を蹴立てた
弾ける音に耳を澄ます
夕立が来れば日向の匂いが
店の中まで満たして濡れて
店番をしていた老婆の裾に
虹のかけらを落として揺れる
遠く広がる緑濃い森を
ラムネの泡越し金魚は眺め
するりと泳いだ鱗に映す
寂れた古い町の片隅
昼寝をしてるよな空気の中で
夢とよく似た駄菓子屋は
陽炎の中の幻と遊び
古ぼけたラムネの瓶では
ときおりあくびの様な泡を立て
今日も今日とて金魚は眠る
夕暮れの陽射しが
山の向こうに消えてく
鮮やかな夕焼けの
染めてる空を見上げた
夏がもう終わるんだねと
君が隣で呟く
一番星が見えていた
たなびく飛行機雲の横
少年のころの日々を
僕らは今感じている
あの太陽は明日もまた
僕らの上で照るのだろう
風はいつの間にか
ほんのり冷たくなりながら
ヒグラシの鳴き声と
緩やかな夜をつれてくる
僕らはまだ幼くて
小さな胸に去来する
この思いの名前を
郷愁と呼ぶとは知らぬまま
夕焼けの空の下
丘の上から見送った
いくつもの輝く夏の日を
いつか思い出す日もあるだろう
今
答えを探す君に
ただ一言
大丈夫だと
伝えて
夜に冷やされた風が
君の涙を攫っていく
なかったことに出来るなら
君はどこへでも行けばいい
君が恋したあの日々も
君が夢見た約束も
二人で眠ったあの夜も
二人で誓った秘め事も
僕が愛した君の名も
僕が贈ったぬくもりも
なかったことに出来るなら
君はどこへでも行けばいい
あの日零したコーヒーの染み
あの日に植えたサクランボの樹
いつも通った公園の影
いつも買ってた甘やかな菓子
初めて出会った月夜の晩や
初めて交わした言の葉を
なかったことに出来たなら
僕は君をただ見送ろう
なかったことに出来たって
僕は君のことを憶えてる
(2008/08/27)
楽しいと思えることをやりなさい
頼めると思う人を遣りなさい
正しいと思えることをやりなさい
ただ正義をかざすのはやめなさい
たがためにと思うこともやりなさい
だが駄目だと思うこともやりなさい
誰もが喜ぶことをやりなさい
誰もが嬉しいと思えることをやりなさい
誰でもそう思うことは出来るはず
正しいかどうかは分からなくても
(2008/08/21)
一人きり
歌を歌いながらドライブ
青い空の下
海を目指してどこまでもドライブ
好きな歌をカバンに詰め込んで
お気に入りのシャツを風にはためかせ
一人きり
遠く光る渚へドライブ
夏の終わりかけた砂浜の
夕暮れ時に降り立って
名残の歌を口ずさみながら
日頃の疲れを流すんだ
一人きり
歌を歌いながらドライブ
ケータイは置いていくよ
歌と車とアタシだけ
海を目指して走るんだ
バニラアイスクリームのように
白く甘くなりたい
恋や愛のトッピングが
美しく映えるように
バニラアイスクリームのように
柔く冷たくなりたい
胸を焦がす熱い想いも
するりと喉を通るように
バニラアイスクリームのように
夏の陽射しに似合いたい
あなたの腕に抱かれたい
あなたのキスを貰いたい
喉を焼くような甘さに
あとであなたが水を欲しがっても
あなたのそばにいないほうが
あなたの幸せになるのなら
私は素直に身を引くでしょう
あなたをそばで見つめるほうが
あなたを良い方へ導くのなら
私はあなたに寄り添うでしょう
あなたの幸せはあなたのものだけれど
あなたが幸せなら私は嬉しいから
私がそばにいないほうが
あなたの苦痛を癒すのならば
私は静かに立ち去るでしょう
私をそばに感じるほうが
あなたに安堵を齎すならば
私はあなたを抱きしめるでしょう
私の幸せは私のものだけれど
あなたと幸せを分かち合いたいから
もしいま答えが出ないのならば
私をそばにいさせてほしい
あなたがそばにいたがらないなら
すぐにだって去っていくから
私のそばでも痛がらないなら
どうぞ一緒に行かせてほしい
いつかあなたが答えを出すまで
君が出した夏の宿題
未だに答えが出ないまま
夜明けの海を眺めながら
潮騒の町を歩いてる
僕らどこまで行けるだろうか
夏を追って南に向かって
海岸線を眺めながら
肩を並べて途方に暮れる
夏と秋との境目のように
友情と恋もラインが曖昧で
波打ち際を並んで歩いて
僕らどこまで行けるんだろう
港を出て行く船を見送り
夕暮れ渚を遠く見やった
答えは今でも見つからないけど
君と二人で歩きたいんだ
君の手を取りどこまでも行こう
今までと同じ一日なのに
長いような
短いような
眠いような
そうでもないような
忙しいような気もしたけど
暇なような
暢気なような
急かされるような
そんなこともないような
ただ少し
心と頭が
どこかへ散歩してる気はする
そんな一日
想像してみて
一対の手
白い手
黒い手
小さな手
大きな手
綺麗な手
使い込まれた手
つるつる
しわしわ
丸い爪
長い爪
静脈の形
筋の形
ほくろ
傷
それは
私の手
実際とは違っても
それは
私の手
掌を打ち鳴らして
あなたに拍手
想像してみて
一対の手
それは
私とあなたの手
掌を握り合わせて
あなたと握手
(2008/08/20)
いくつものもしもが
戻れる道しるべを
示していたとしたら
今ここに
悲劇の跡は無いでしょうか
いくつものもしもが
やり直せる手立てを
示していたとしたら
今ここに
惨劇の痕は無いでしょうか
けれどもしも
いくつものもしもが
誰しもの眼前に
あるのだとしたら
それはまた
別の悲劇を生むのでしょうか
別の惨劇を呼ぶのでしょうか
言っても詮無いことだけれど
あの日誰かが
それを止められたのならば
今ここに
どんな今日があったのでしょうか
(2008/08/15)
怒りたいような気分の時には
笑ってみる
ちょっと引きつっていても
ちょっとぎこちなくても
笑い飛ばしてみる
嘆きたいような気分の時には
笑ってみる
ちょっと眉根が近寄ってても
ちょっと口角が下がっていても
微笑んでみる
難しくったって
笑ってみる
心持ち眉間の力を抜いて
口の端を上げてみて
笑ってみようじゃないか
怒ってもいいときもあるし
嘆いてもいいこともあるけど
そうじゃないことも多いから
笑ってみよう
大きく息を吸い込んで
僕はその雑踏の中で
傷つくのを恐れ立ち尽くしていた
足を一歩踏み出せば
いやおうなしに巻き込まれる
運命の背中を見つけていたから
埒もないことをと笑われて
それでも笑い飛ばせないままでいた
僕はまだ年若く無力で
なんでもない顔をするには幼く
何も気付かないでいるには大人だった
あと十年もしたならばきっと
酒の席の戯言になっているだろう
それはでももっと先の話で
今の僕にとってはやはり
恐れるに足る運命の背中なのだ
僕はその雑踏の中で
傷つくのを恐れ立ち尽くしていた
一歩踏み出すか否か
それを決めるのは他でもない
僕でしかなかったからこそ
どこだって君となら
面白い場所になるだろう
楽しい場所になるだろう
美しい場所になるだろう
一人では
気付かなかった感動や
予想も出来ない発見が
幾つもきっと見つかるだろう
どこだって君となら
どこへだって君となら
歌を歌うよ
君が夏の日差しを
思い出せるように
輝く波頭を
思い描けるように
真夏の歌を
君に歌うよ
歌を描くよ
君が暑さに噎せて
笑ってしまうくらいに
蝉時雨のシャワーを
浴びてしまうかのように
真夏の歌を
君に描くよ
溶けてしまうほどのアスファルト
ぬるむ風の重たい眠気
木陰の思いがけない冷たさ
そんなものを全て
歌に歌うよ
君が夏の景色を
思い出せるように
どんなとこでも
思い描けるように
暑い暑い森を抜けて
アイスのように溶ける前に
おうちに帰ろう
陽炎が見せる幻より遠くても
逃げ水が映し出す景色のようでも
蒼い蒼い空を抜けて
夕立よりも思いがけなく
おうちに帰ろう
音を立てて蒸発する湯気が道を白くぼかしても
まばゆい陽射しに浮かんで見える虹みたいにおぼろでも
おうちに帰ろう
そこが僕の帰る家
私の足跡は
いつの間にこんなに
長くなったのだろう
もう見晴るかせない
遠く遠くまで
辿ってきた道のりは
いつの間にこんなに
繋がった枝道は
いつの間にこんなに
多くなったのだろう
もう途切れてしまった
いくつかの道も
訪ねていったその先は
いつの間にこんなに
一つ一つ
確かめてみるのもいい
ときには
振り返ってみるのもいい
埃をかぶって忘れたままの
道標に書かれた文字を
景色に霞んで先の見えない
幾重にも連なった来た道を
(2008/08/19)
未だ熟してない果実みたいな
甘酸っぱさが胸を突く
青い臭さが胸を刺す
そんな恋した日もあった
熟れすぎてった果実みたいな
粘つく甘さが胸を焼く
堕ちる予感が胸を押す
そんな恋した夜もあった
かつての恋は朽ち果てて
次なる恋は未だ咲かぬ
(2008/08/11)
ぐるぐる回る世界
いいえ
回っているのは
あたしのあたま
ぐるぐる回る視界
いいえ
回っているのは
あたしの気分
明日回るのは
あたしなのか
世界なのか
遠い日の空の下にも
人はいた
よく晴れた夏の日の
朝の陽射しの下に
人はいた
同じような空の下で
生きている私たちに
降り注ぐものが
ただの陽射しであるように
世界中の誰一人
押してはならぬボタンを押さないように
ただ願い
ただ祈り
そして隣の誰かに笑いかけ抱きしめる
その手が傷つかぬように
その手が傷つけぬように
誰もが誰かに笑いかけ抱きしめて
青空の下で生きて欲しい
ただ願い
ただ祈り
愛が地球を救うようにと
台風がやってきた
賑やかで元気いっぱいの
台風がやってきた
軽やかな笑い声の
飛び跳ねて駆け回る
つるんと転んで少し泣く
台風がやってきた
小さくても元気いっぱいの
台風がやってきた
ちびっ子たちがあばれてく
僕のキャラメル箱は映画館
こっそりと覗けば
誰も知らない映画をやってる
見たこともない女優が
星の中で眠ってる
お菓子の森の中を
虹色の小鹿が駆けて行く
水晶の塔の中で
歌姫が騎士と恋をする
僕のキャラメル箱は映画館
こっそりと覗けば
甘くて優しい映画をやってる
シャボン玉の中の少女が
湖の上を飛んでいく
遠い遠い異国の町で
魔法使いが花を咲かす
クマのぬいぐるみと少年が
笑いあいながら旅をする
僕のキャラメル箱は映画館
僕はキャラメルを頬張りながら
甘くて優しい気持ちになる
空に月が昇る頃
町は蜂蜜の色になる
甘い匂いに誘われて
君の唇にキスをした
甘く優しく蕩けてた
空の月が溶ける頃
町は蜂蜜の味になる
金色に光る道端で
君の指先にキスをした
甘く柔らかく濡れていた
やがて夜が明ける頃
空も町も染まってく
冷たく煌く蜂蜜に
君と二人で溶け合った
甘く安らかに溶けていた
君は危険な電撃ガール
ぴかっと光って
僕を捕らえる
君は危険な雷撃ガール
びかっと痺れて
僕を取り込む
お願いベイベー
優しくしてよ
君はアブナイ電撃ガール
獣の微笑で
僕に噛み付く
君はアブナイ雷撃ガール
鋭い視線で
僕を貫く
頼むよベイベー
痛くしないで
嵐のような強烈ガール
雷光のように姿焼き付け
雷鳴のように奥まで響いて
稲妻のようにハート撃ち抜く
好きだよベイベー
致命的だよ
(2008/08/07)(