優しい羽毛でくすぐるように
掌の中で泳ぐ金魚
赤い尾びれを揺らめかせ
蠱惑な仕草で魅了する
指先に軽く触れながら
掌の中で泳ぐ金魚
艶めく鱗を煌めかせ
飛び跳ねた水でキスをする
君が残した
夏の金魚
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朝日が昇る前の空の色
心から浮かべた溢れる微笑
夢の中で見た風景
壊れてしまった砂時計
フロントガラス越しの夕焼け
別れを言って去っていく背中
そっくりそのまま
切り取って残せたらいいのに
写し取って持っていられたらいいのに
そうはいかないから
心のシャッターで撮っておく
いつでも思い出せるように
いつか
思い出になるように
青く澄み渡った空を見る
溢れんばかりの笑みを見る
心に染み入る品を見る
吹き渡る風の音を聴く
優しい言葉の歌を聴く
大好きな君の声を聞く
咲き誇る花の蜜を飲む
極上の料理を口にする
君の作った菓子を食べる
子猫や子犬を撫で上げる
繊細な彫りを撫でてみる
大好きな君を抱きしめる
海を渡った潮風を吸う
ふわりと香る香水を嗅ぐ
君の入れたお茶を匂う
それが私の糧になる
気配がするので起きてみると
枕元に殿様がいる
いかがなさいましたかと訊くと
悋気に惑わされおぬしを斬ってしまったと言う
ご案じ召されますな、これこの通り成仏しました
そう答えて差し上げると殿様は消えた
これでよく眠れる
蜆の棒手振りをしている
おくれと声がして女が立っている
酔いどれ亭主にね、と
買って行ったが
あの女の亭主は5年も前に死んでいる
そういえば、あの女も昨年死んだのだった
桶の蜆は減っていた
夕暮れ時の橋のたもとで小僧が泣いている
どうしたのかと問えば
川に落し物をしたのだと泣く
そう深い川ではなかったので
何を無くしたのだ、探してやろうと言うと
小僧はのっぺらの顔を指し示した
おいらの顔さ
花街の話である
朝霧と名乗る女に出会った
妾と恋に堕ちておくんなんし
女はそう言って私を手招く
ふらふらと近寄ったが
触れることは出来なかった
名前のような女だった
花街の話である
昼顔と名乗る女に通った
久しぶりでありんすね
恋ひてか寝らむ 昨夜(きそ)も今宵も
そう詠ったあとで
女は花になって消えた
白い花が涙で濡れていた
花街の話である
夕凪と名乗る女が笑った
ぬしさまはご存知でありいせんね
嵐が来れば凪は泡沫
女に抱きしめられた瞬間
あっという間に溺れてしまった
指物屋をしている
鑿が滑って指を切った
作りかけの煙草盆の上に
赤い牡丹が咲いた
同時に哄笑が響いた
大店の女将さんが買っていったが
旦那の愛人に贈るらしい
袋物屋をしている
古着を解いていたら
襟から手紙が出てきた
読むと昔の女が俺に宛てた手紙だった
引き裂いて全ての袋に縫い合わせた
買っていった娘は全て
良いところに縁付いたらしい
下駄の鼻緒が切れてしまった
提灯の火も消え月も隠れた
さても困ったことかなと呟けば
もし、と背後から声がする
よければこれをお使いなさい
下駄の片方を手渡された
雲が切れて去っていく唐傘オバケが見えた
外が賑やかなので覗こうとすると
婆様に止められた
出ちゃならねぇ、あれは百鬼夜行さ
取って喰われてしまうよ
言いながら自分は楽しげに踊って出て行った
毎回自分だけ楽しそうだ
いい加減成仏してくれないと困る
シグナルが遠くで鳴り響く
駆け出せ
駆け出せ
駆け出せ
光は明滅して通り過ぎてく
駆け抜けろ
駆け抜けろ
駆け抜けろ
鼓動を追い越すビートを刻んで
駆けて行け
駆けて行け
駆けて行け
夜空に打ちあがる花火よりも
高速で流れてくテールランプよりも
無人の交差点を照らし出す信号よりも
鮮やかに駆けて行け
月のない夜に
冴え冴えと光る
白い骨
しっとりと浴びた夜露は
乾いた骨を軋ませる
あれは昔の美姫の嘆きさ
通りすがりの鴉が啼いた
二度と戻らぬ恋人を
待って待ち侘び泣いているのさ
星のない夜に
白々と光る
冷たい骨
要らぬ熱を捨てた白さが
夜の帳に突き刺さる
あれは昔の騎士の名残さ
夜さり歩きの黒猫が云う
二度と逢われぬ恋人を
乞うて焦がれて泣いているのさ
鴉が啄ばむその骨の
黒猫が齧るその骨の
行方は誰も知らぬまま
月も星もない夜のこと
(2008/07/31)
いたずら好きの
小さな風は
つむじ風にもなれない
小さな竜クースツヌ
巻き上がるには
弱すぎて
吹き飛ばすには
小さくて
赤子の巻き毛を
揺らしてみたり
光る埃を
散らすだけ
小さな竜のクースツヌ
ある日どうにも
我慢がならず
大海原へ出て行った
照らす陽射しに
揺らいでみたり
寄せる波間に
沈んでみたり
つぬじかぜには
世界は手ごわい
ある夜とうとう
海の中
おやおやこれはお珍しいと
珊瑚の仙女が笑って言えば
これは遠いところの縁者であると
海馬の賢者が微笑んだ
歓迎を受けたクースツヌ
海の底にて日々過ごす
やはりつむじ風は起こせず
つぬじのままの竜だけど
月夜の卵を
漂わせたり
光る鱗を
撫でたり出来る
小さな竜のクースツヌ
時々海の向こうを思うけど
いつか大きくなる日まで
世界を廻れるその日まで
海の仲間の世界にそよぐ
(2008/07/30)
花火の途切れたその隙に
暗闇の中でキスをした
冷たい唇に染み込んだ
甘いイチゴの味がした
キレイだね
あなたにそう言わせたかったの
たとえば星降る夜の空
たとえば見上げた大花火
たとえば一面の花畑
たとえばせせらぐ澄んだ川
たとえば囀る朝の鳥
たとえば小さな飴細工
たとえば桜の色の貝
たとえば木陰に降る光
キレイだね
あなたにそう言われたかったの
たとえば私
たとえば
右手に持った大豆と
左手の上の林檎とが
重なり合う不思議のように
絶妙なバランスで重なり合った
太陽と月
たとえば
目も眩むほどの明るさの中
確かにそこに存在していたのに
不意に現れたかのように
その一瞬の中で瞬く
冬空の一等星
たとえば
世界が齎した神秘と
自然の巧妙な悪戯とを
まるで意思あるもののように
感じながら一喜一憂する
地上の私たち
残された僅かな単語
繋がらない言葉の羅列
掴めそうで掴めない
暗号にも似た難問
忘れられた机の引き出しに眠る
遠い昔の私のかけら
解いておくれと声がするメモ
残された僅かな記憶
繋がらなくても繋げて
昔を手繰って形にせんとす
君は元気ですか
どこにいても
どんなときも
君を思い出しては
呼びかける
君は元気ですか
どんなものも
どんなひとも
君を忘れるには
足りなかった
君は元気ですか
どこにいても
どんなときも
君を思い出すなんて
嘘だけれど
君は元気ですか
どんなものも
どんなひとも
君を不意に思い出させる
ことがあるんだ
君は元気ですか
どこにいても
どんなときも
君の答えはきっと
返ってこないけど
元気ならいいんだ
(2008/07/25)
おひさまふとん
ふかふかで
ほかほかだ
おひさまふとん
ふわふわで
きもちいい
おひさまふとん
きもちいいけど
ねぐるしい
(2008/07/24)
遠い日に見た夢が
癒えないままに
僕は大人になった
夏の日の潮騒が
胸の傷に沁みて
泣きそうな僕の砂浜は遠い
駆け出した僕の
擦り切れたサンダルの底に
刺さっていた淡い薄桃色
いつの間にかできた青痣
子供じみた感傷の色も
やがて色褪せてなくなる
砕けた貝の欠片
滲んだ葉書の言葉
夏風に揺れる風鈴のささやき
どこへ行ってしまった
灼熱の太陽と情熱に負けない
あの少年の日々よ
遠い日に見た夢が
癒えないままに
僕は夏を見てた
(2008/07/23)
一人じゃないってこと
誰かに教えてもらったとき
自分を少し好きになった
だからあなたにも
教えたい
あなたもまた
一人じゃないこと
七月のある日
僕は世界を見たように思った
バーのカウンターの片隅で
煙草吹かしながら酒を飲んでた
そいつは自分は世界だと言った
世界とは存外小さいんだな
酒を酌み交わしながら言うと
世界は大きくて小さいものさ
そう言ってそいつは煙草をぷかり
お望みならば大きくなろうか
そいつの言葉にバーテンダーが一瞥
お客さん店を壊すのはご勘弁
不貞腐れた世界は酒をぐびり
今宵はお前が奢ってくれよ
そいつは僕にそう言って笑う
お前らのツケを払う代わりにさ
たまには逆も悪くないだろ
七月のある日
僕は世界に出会った
倣岸で不遜で不健康な世界は
それでも瞳は澄んでいた
探しているお話はどれですか
よろしければ探してみせましょう
ありきたりでない悲恋もの
見たこともない異世界の話
うろ覚えにしか分からない
幼い日に聞いた話
終わらぬままに終わってしまった
未完のままの誰かの話
探してるお話はどれですか
どんなものでも探してみせましょう
見てきたような歴史もの
背中合わせの恐怖の話
いつか書こうと思ったままの
机の中のあなたの話
どんな人でもただ読むだけで
癒され微笑む優しい話
探してるお話はなんですか
いくらだって探してみせましょう
ただし御代はあなたの話
過去の未来の現在の
あなたの話を切り取って
そっくりそのままもらいます
あなたの人生の落丁を
厭わなければさあどうぞ
何でも探してみせましょう
お月様に恋をした
黄色い黄色いヒマワリは
夕暮れ時の半月に
思いの丈を打ち明けた
お月様は苦笑して
お前は太陽の子供だろう
草木は夜には眠るもの
どうにも世界が違うのさ
それに私が好きなのは
真白い真白い雪の花
世界の全てを白にして
私の光を受ける花
お月様に恋をした
黄色い黄色い夏の花
雪というのが分からずに
空のお日様に頼み込む
私は夏の花だけど
どうにも雪が見てみたい
枯れて種実をつけたなら
どうか冬まで起こしてて
明るく優しいお日様は
よしいいともと引き受けた
木枯らしからも雨からも
冬までお前を守ろうぞ
花はしおれて色褪せて
幾つの種実のその中に
ひときわ大きな種を付け
ヒマワリ想いを託したと
やがて夏が去り秋が来て
落ち葉の布団で冬を待つ
そしてある晩待ち侘びた
真白い雪に巡り合う
お月様に恋をした
小さな小さな花の種は
ああこれこそがあの月の
恋しい愛しい雪なのか
やがて冬も去り春が来て
まばゆい夏が訪れた
恋する恋するヒマワリは
芽を出し葉を成し花咲いた
お月様に恋をした
かつての黄色いヒマワリは
恋い慕うあまりその色を
真っ白な色に染め上げた
ある夕暮れの満月は
真白い花弁のヒマワリに
ほんの小さく笑み浮かべ
その花弁に接吻した
飛べると思ったんだ
青い空が見えたから
赤い風船を追いかけた
空は高くて近かった
小さな丸い掌を
指折り数えて足りるほどの
幼い私は行けたんだ
行けると思ったんだ
兎のあとを追ってって
地面の底のまた底に
夢見るように飛んだんだ
風船追いかけ雲の上
兎を追いかけ穴の中
幼い私は行けたんだ
それをたとえ夢と呼んでも
それをたとえ嘘と言っても
幼い私は行ったんだ
薄暗い灯りの中で
ギムレットを飲み干した
あなたがとても好きだった
強いお酒を飲み干した
口を開かぬバーテンと
時を閉ざしたジャズの中
隣に座った面影が
ジンの薫りを漂わす
せめて今宵はあなたと二人
ギムレットに酔いましょう
影も朧な灯りの下で
夢とお酒に酔いましょう
そして最後にあなたを一人
置き去りにして店を出る
今はもうないあなたの影を
店のスツールに置いていく
(2008/07/16)
小さなものが好き
小さなお部屋に
小さな家具を並べ
小さなスイーツを
小さなタンスには
小さな洋服を
小さな出窓には
小さな鉢植えを
小さなものが好き
小さなお庭に
小さな木々を植えて
小さな鳥を添えて
小さな花壇には
小さな蔓薔薇を
小さな門扉には
小さな昼寝猫
小さなものが好き
掌に乗るほどの
小さなものが好き
指先に乗るほどの
小さな我が家には
小さなあなたと
小さなあたしを
小さな青空に
小さな綿雲を
小さな夜空には
小さな星屑を
ああ
でもどうしよう
愛だけが大きくて
この家に入らない
(2008/07/11)
愛のカタチを知っていれば
もっとうまくいったのだろうか
愛のキセキを信じていれば
もっと続いていたのだろうか
愛だと思っていたものは
あなたのカタチと違っていた
愛だと信じていたものは
二人のキョリを隔てていった
情愛のカタチで思い出すあなたと二人
あの頃求めていたものは
恋よりも深いカタチだったのに
今でも一人
見つけきれないまま探している
目を閉じれば思い描くことが出来る
バラ色の朝もやの中で君が生まれた朝を
雨上がりの虹の下を駆けていく幼い君を
君の睫毛に降る星屑が煌きながら揺れるのを
まだ硬い桃の実のような初恋に匂い立つ君を
ひめやかに唄う小鳥のようにキスする君を
小悪魔の笑みで誘いをかける魅惑の君を
今私の部屋の窓辺で外を見ている君の背中を
耳元で囁く忍び笑いの君の声を
揶揄うように髪を引っ張る君の指を
目を閉じれば思い描くことが出来る
だから私は信じない
君がいないなんてこと
一人で星を眺めてた
幾つもの夜
報われない恋も
上手くいかない仕事も
不安なままの明日も
置いてきたままで
ただ星空を眺めてた
時折流れる星屑を見て
遠くで響く夜汽車を聴いて
ただ静かに眺めてた
寄り添う孤独さえ
置いてきたままで
あの時私は
空と二人きりだった
満月の光に隠れて
薄雲の後ろでキス
願い事が出来るなら
あなたといつも逢えるのに
そんな二つの星たちは
揺れる笹の音に瞬き
天の川渡って抱き合う
カササギが飛んでく天の下
君は一人じゃないよ
そう言ってくれるのは
鳥篭の中で歌う鳥
君の世界は広がってる
来ては過ぎるときの中で
恐れて立ち止まってないで
できるところまで走ってごらん
夢を探しながら自由を求めて
風の向こうまで見えたなら
君もきっといつか気付くだろう
自由なんてものはどこにだって
あるんだって
あの頃見た太陽が今日も
君の上で輝いてるように
君は一人じゃないよ
そう言ってくれるのは
額縁の中で咲く花
君の未来は雨にも似ている
降っては晴れる気まぐれの中
隠れて怯えたりしないで
心行くまで味わってごらん
道に迷いながら答えを呼んで
昨日の足跡を見つけたら
君もきっといつか分かるだろう
描いていくものはどんなにだって
変化するんだって
あの時見た月がいつか
満ちては引いていくように
走れ
もっともっと
明日が見える
その先まで
見えそうにないのなら
もっと走れ
(2008/07/04)
彼はとても細いので
彼はとても軽いので
とうとう空に浮きました
腕がとても長いので
足もとても長いので
空気を掻いて進みます
地上の彼女に手を振って
行って来ますと言いました
地上の彼女は空見上げ
どこまで行くのと訊きました
風の吹くまま
流れるままに
どこへ行くのか分からない
そこで彼女は手を振って
待っているわと言いました
風に吹かれて西東
嵐に揉まれ北南
彼はとても軽いけど
空でさらに軽くなる
ぐるりと星を廻る頃
身体はいつしか星の外
これでは戻るに戻れない
彼はとても細いので
彼はとても軽いので
とうとう星になりました
瞳を開けたら恋人が
両手の皿を差し出した
どこにも飛んでいかぬよう
さあさあどうぞ召し上がれ
(2008/07/03)
ソフトクリームの塔に登って
あなたを待とう
夏の日差しより早く
そよぐ風よりも早く
逢いに来てね
溶けてしまう前に
ソフトクリームの塔に登って
あなたを待とう
待ちきれなかったら舐めてしまって
待ち遠しすぎたら食べてしまって
逢いに行くわ
あなたよりも早く
逢えるなら逢いたいよ
彼女が言った
こんな距離なんか飛び越して
こんな時間なんか飛び越えて
逢えるなら逢いたいよ
彼女は言った
今すぐにでも彼のところへ
いつまででも彼のところで
逢えるなら逢いたいよ
彼女は言ったけど
二人が逢えるのは年に一度
二人が逢えるのは三日後の夜