雨音に身を委ねたら
このままずっと
眠ってしまえるのだと思った
体内を巡る血潮の音に似て
そのままずっと
忘れてしまえるのだと思った
でも
やまない雨なんてないのだ
いらっしゃい
気になる品はございましたか
ああ
そちらは「ぬふ」
濡れた布と書きます
お手にとって御覧なさい
しっとりと吸い付きましょう
しかし裏を返したならば
じっとりと粘りつきましょう
それは
あなたに終焉と始まりを齎す布
しっとり愛おしい手触りの面で
包み込んだならば
それはあなたを生まれ変わらせる
胞衣となります
じっとり厭わしい手触りの面で
包み込んだならば
それはあなたを葬り去るための
経帷子となりましょう
布を濡らすのは
涙か血潮か
あなたを濡らすのは
生命の海か
奈落の沼か
お好きな方をお選びなさい
掌に乗るような
小さな小さな恋だった
吹けば飛ぶような
軽い軽い恋だった
追いかければ逃げるような
可愛い小憎らしい恋だった
涙を啄ばんでくれる
優しい優しい恋だった
小鳥のような恋は
ある朝
羽ばたいていってしまった
胸の中の籠はただ
風にきしんで揺れている
私の言葉が
残るのならば
あなたに好きだと
伝えよう
言葉としての
カタチをなくして
風に吹かれて
消えたとしても
どれほど細かい
霧になっても
あなたのことを
包むよう
私の心が
残るのならば
あなたに好きだと
伝えよう
たとえどんなに
遠くにいても
雲から差し込む
光のように
どれほど暗い
闇の中でも
あなたのことを
照らすよう
私の姿が
どこに消えても
あなたに好きだと
伝えよう
歌うたいの歌詞が
突き刺さる夜に
泣き濡れていたのは
公園のブランコの鎖
林檎売りの声が
滴り落ちる夜に
途方に暮れていたのは
電柱にぶら下がる街燈
売れぬ絵描きの筆が
かすれ気味な夜に
画布を塗り潰したのは
浮かれ烏の尾羽
迷い人の影が
倒れ臥した夜に
道を温めようとしたのは
半分に欠けていく月
習うことはすべて
意味がないのかもしれない
学ぶことはすべて
役に立たないのかもしれない
君がもしそう思うのなら
それもひとつの真実かもしれない
けれども本当に
そうだろうか
君の歩む道のりの中で
確かに使わない公式があるだろう
君が選ぶ未来の中で
確かに縁のない偉人だっているだろう
けれども本当に
そうだろうか
君が暮らす日常の中で
たとえば回転は必要じゃないか
君が過ごす関わりの中で
たとえば言葉は必要じゃないか
習うことはすべて
何かの意味があるものだ
学ぶことはすべて
何らかの役に立つものだ
知識でも
会話でも
礼儀でも
学び舎はいろんなことを教えるだろう
常識や
理不尽や
人生も
この世界もまたいろんなことを教えるだろう
吸収しようじゃないか
土が水を飲み込むように
糧にしようじゃないか
水が木々を育むように
習うことのすべてに
何かの意味を見出すことだ
学ぶことのすべてを
役に立つのだと考えることだ
それが人生を楽しむコツだ
そう言ったなら
君はそれも学んでくれるだろうか
お気に入りの歌を聴く
そのうち一緒に口ずさむ
お気に入りのスウィーツを食べる
一口食べればしこりが取れる
お気に入りのサイトを廻る
そのうち楽しくなってくる
お気に入りのあなたと話す
一言話せば澱みが消える
そんなお気に入りが
増えるよう
あたしは今日も
アンテナを巡らせる
誰かに伝えたいような
伝えても意味がないような
そんな言葉があるときには
いったい誰に
伝えたらいいの
零れそうなただの愚痴だとか
思わず出そうな弱音とか
聞いても誰の得にもならない
聞いても何の役にも立たない
厭な気分にさせてしまったり
時間を無駄にするかもしれない
誰かに訴えたいような
訴えてみてもどうにもならない
そんな想いがあるときには
いったいぜんたい
どうしたらいいの
やくたいもない嘆きだとか
行き場を失った怒りだとか
それでも吐き出したいときがあるの
それでも溜め込めないときがあるの
つらい気持ちにさせてしまったり
間に溝を掘るかもしれない
穴を掘って叫べるのなら
それですっきり出来るものなら
誰でもいいから
聞いて欲しいよ
そういうときもあるよと言って
優しくお疲れ様だねと言って
ただそれだけで救われることも
そういうこともあるよと言って
授業を抜け出して
青空の下
他愛もない話と
秋の風の中
屋上の僕らが見下ろしたのは
ささやかな僕らの町と
脱ぎ捨てた夢のかけら
雲の影を翼に見立てても
もう僕らは飛べないことを知っている
その代わりに僕らは
研ぎ澄まされた夢を持って
一歩踏み出すことを知った
授業を抜け出して
夕焼けの下
明日へ続く影と
光り始めた月と
屋上の僕らが見下ろしたのは
ありふれた僕らの町と
壊された壁のかけら
人のせいにしてしまっても
もう僕らは意味のなさを知ってる
その代わりに僕らは
瓦礫の上を夢を持って
乗り越えていくことを知った
おかえり
その言葉の優しさ
おかえり
その言葉の温かさ
帰れる場所があるということ
迎える人がいるということ
新しいことを試すのは
怖くて面白い
面白いけど怖い
知らない人と出会うのは
怖くて面白い
面白いけど怖い
一人で旅に出かけるのは
怖くて面白い
面白いけど怖い
夢を目指して走るのは
怖くて面白い
面白いけど怖い
それでつい
二の足を踏んでしまうけれど
知らないままよりも
やらないままよりも
たぶん面白い
きっと面白い
指先に痺れる感覚だけを残して
あなたは行ってしまった
体に溜まった熱が取れない
あなたしか解けないのに
胸の中に想いを残して
あなたは行ってしまった
だから探すことにしたの
あなたに似たカタチの人を
気づいてしまったから
あなただけじゃなかったことに
乖離していく
心と体
引き離されてく
私と私
抵抗と諦念
反抗と観念
抗っても呑まれてく
もう
だめだ
何もかもを欲しがって
何一つ手に入らなかった
男が最後に見たものは
倒れた彼を受け止めた
ずっと一緒にいた影法師
何もかもを諦めて
何一つ手にしなかった
男が最後に見たものは
目と鼻の先にある
ずっと欲しかった存在感
ずっと一つを追いかけて
ようやくそれを手に入れた
男がそのあと見たものは
追うべき光がなくなって
あやめも分からぬほどの闇
たった一つを追いかけて
結局それを掴めずに
男があるとき見たものは
視野が狭くて見なかった
思った以上の広い世界
それでも一つを追いかけて
とうとうそれでも手に取れず
男が最後に見たものは
不意に口からこぼれ出た
一途な想いの美しさ
適度にものを欲しがった
そして適度に諦めた
男が思わず見たものは
ほんの一滴で傾きそうな
どっちつかずの欲しいもの
何か一つを欲しがって
それを求めて旅をした
男が探してみたものは
男のためには囀らぬ
どこかの誰かの青い鳥
どれか一つを選べずに
それでもずっと悩んでた
男が最後に得たものは
つまずき転んで倒れ臥し
たまたま手にしたただの石
だれか一人を選べずに
結局すべてを手に入れた
男が最後に見たものは
均等な愛に愛想を尽かし
皆で去ってくその背中
その一瞬を欲しがって
叶えてそれを手に入れた
男がその後見たものは
時計の針が過ぎ去って
途方に暮れた明日だった
私だってたまには
女の子みたいに
甘い甘い夢を見る
赤い糸の先や
包み込まれるぬくもり
絡めた指の形
甘く疼く心
私だってときには
小さな子のように
壊れない夢を見る
フリルやレースみたいに
華やかなものたち
砂糖菓子や花束
クリスタルやシャボン玉
現実はいつでも
冷たくて優しい
現実はときどき
夢よりも明るい
一緒に連れて行ってと
風が囁く
まだ暑い日差しの中
彼女の吐息は冷たくて
ほんのり空を高くする
一緒についておいでと
星が瞬く
闇の濃い帳の中
彼のウインクは堂に入り
ひんやり空を甘くする
一緒に歌わないかと
雲が嘶く
もう早い夕焼けの中
彼らの群れは色づいて
じんわり空を染めていく
そして秋が
悪戯気に押し寄せる
逃げられるように
しておくんだ
何がおきても
いいように
何があっても
いいように
逃げるのは別に
罪じゃない
逃げるのは別に
負けじゃない
立ち向かえるように
しておくんだ
いつか勝つぞと
言えるよう
いつか帰ると
言えるよう
だから今はただ
備えとくんだ
だから今はただ
考えとくんだ
逃げられるように
しておくんだ
いつか来るが
明日でも
いつか来るが
来なくても