本当はずっと
もっと上を目指していた
いつのまにか
涼しい顔で
諦めた素振りを身につけた
本当はきっと
もっと上を目指せていた
いつのまにか
訳知り顔で
繕った言葉を身にまとった
本当はもっと
もっと上を目指したかった
いつのまにか
素知らぬ顔で
そんな自分と身を別った
どこからか
泳いでくる
ひそやかに
波を分けて
抜き手を切って
水を掻いて
どこからか
泳いでくる
すみやかに
近寄ってくる
意識の水面を
波立たせながら
抗いがたい
圧倒的なスイマー
逃げ切れずに
捉えられたら
あとはもう
眠るだけ
逆らいがたい
圧倒的な睡魔
なかったことに出来るなら
君はどこへでも行けばいい
君が恋したあの日々も
君が夢見た約束も
二人で眠ったあの夜も
二人で誓った秘め事も
僕が愛した君の名も
僕が贈ったぬくもりも
なかったことに出来るなら
君はどこへでも行けばいい
あの日零したコーヒーの染み
あの日に植えたサクランボの樹
いつも通った公園の影
いつも買ってた甘やかな菓子
初めて出会った月夜の晩や
初めて交わした言の葉を
なかったことに出来たなら
僕は君をただ見送ろう
なかったことに出来たって
僕は君のことを憶えてる
言葉なんて
きっと通じればいいんだろう
技巧を凝らして
装飾をして
本心が奥深くに眠ってしまうよりは
言葉なんて
きっと伝わればいいんだろう
単語を探して
見当たらなくて
本心を言い表せないくらいなら
そんなことは
分かっている
百も二百も
分かっている
でもいやなんだ
言葉なんて
たいしたことないと思ってるんだろう
謙譲語と尊敬語履き違えたり
有り得ない文字で書いてみたり
意味さえ通じればいいやと
意思さえ伝わればいいやと
そんなのは
間違っている
まだまだ私も
間違っていても
でも
いやなんだ
だって
意味が通じればいいだけなら
意思が伝わればいいだけなら
こんなに言葉は発達してないんだから
夢はいつも
手のひらをすり抜けた
水のように涼やかに
感触だけを置いたまま
夢を夢とも知らないままに
あたしはそれを夢見てた
愛はいつも
胸の中を吹き抜けた
風のように軽やかに
残り香だけを置いたまま
愛を愛とも名づけぬままに
あたしはそれを愛してた
人生は一寸先に何が起きるか分からない
それを予測できるかどうかも分からない
良いことが起きるかもしれないことも
悪いことが起きるかもしれないことも
人生は一寸先に何が待つのか分からない
それでもまあ
一寸先を待ち受けるしかないのだろう
楽しいと思えることをやりなさい
頼めると思う人を遣りなさい
正しいと思えることをやりなさい
ただ正義をかざすのはやめなさい
たがためにと思うこともやりなさい
だが駄目だと思うこともやりなさい
誰もが喜ぶことをやりなさい
誰もが嬉しいと思えることをやりなさい
誰でもそう思うことは出来るはず
正しいかどうかは分からなくても
想像してみて
一対の手
白い手
黒い手
小さな手
大きな手
綺麗な手
使い込まれた手
つるつる
しわしわ
丸い爪
長い爪
静脈の形
筋の形
ほくろ
傷
それは
私の手
実際とは違っても
それは
私の手
掌を打ち鳴らして
あなたに拍手
想像してみて
一対の手
それは
私とあなたの手
掌を握り合わせて
あなたと握手
私の足跡は
いつの間にこんなに
長くなったのだろう
もう見晴るかせない
遠く遠くまで
辿ってきた道のりは
いつの間にこんなに
繋がった枝道は
いつの間にこんなに
多くなったのだろう
もう途切れてしまった
いくつかの道も
訪ねていったその先は
いつの間にこんなに
一つ一つ
確かめてみるのもいい
ときには
振り返ってみるのもいい
埃をかぶって忘れたままの
道標に書かれた文字を
景色に霞んで先の見えない
幾重にも連なった来た道を
眠れないよ
きみに
さよならを
言うんじゃなかった
後悔が
押し寄せて
胸の小骨を揺らすんだ
泣くほど痛くはないけれど
無視できるほど弱くもない
逡巡が
打ち寄せて
胸の隙間に染みるんだ
眠れないよ
きみの
さよならを
聞くんじゃなかった
いくつものもしもが
戻れる道しるべを
示していたとしたら
今ここに
悲劇の跡は無いでしょうか
いくつものもしもが
やり直せる手立てを
示していたとしたら
今ここに
惨劇の痕は無いでしょうか
けれどもしも
いくつものもしもが
誰しもの眼前に
あるのだとしたら
それはまた
別の悲劇を生むのでしょうか
別の惨劇を呼ぶのでしょうか
言っても詮無いことだけれど
あの日誰かが
それを止められたのならば
今ここに
どんな今日があったのでしょうか
今だけは信じてもいいですか
運命の恋があるのだと
永遠の愛もあるのだと
終わらない幸せな日々や
変わらないあなたの温もりを
今だけは信じてもいいですか
いつか
夢から醒めるまで
苦しいよ
もうダメだ
これ以上
もう君の入る隙間なんて無い
苦しいよ
もう無理だ
これ以上
君を望む余裕なんて無い
甘い誘惑も
うまい囁きも
悪いけど
もうゴメンだ
切なさで張り裂ける胸よりも
苦しさではちきれそうなこのお腹
星が流れるこの夜に
ただひとつだけ願うなら
いったいなにを願おうか
今はもう亡いあの人の
静かな眠りを祈ろうか
額に汗する人たちの
ほころぶ笑顔を願おうか
それとも篠突くこの雨が
止んで晴れるよう祈ろうか
星に願いをかけるなら
いったいなにを祈ろうか
きっと無理でもこの夜が
誰にも優しくあるように
叶わなくとも明日の陽が
誰にも愛しくあるように
未だ熟してない果実みたいな
甘酸っぱさが胸を突く
青い臭さが胸を刺す
そんな恋した日もあった
熟れすぎてった果実みたいな
粘つく甘さが胸を焼く
堕ちる予感が胸を押す
そんな恋した夜もあった
かつての恋は朽ち果てて
次なる恋は未だ咲かぬ
綺麗事だけじゃない
権謀も思惑もある
ただ美しいわけじゃない
それでも
互いに手を取り合って
それでも
互いに高みを目指し
今その場所は綺麗であるよう
集った者たちの汗が
努力と涙が
光り輝く場所であるよう
綺麗事だけじゃない
でもそれはたしかに
綺麗なのだ
君は危険な電撃ガール
ぴかっと光って
僕を捕らえる
君は危険な雷撃ガール
びかっと痺れて
僕を取り込む
お願いベイベー
優しくしてよ
君はアブナイ電撃ガール
獣の微笑で
僕に噛み付く
君はアブナイ雷撃ガール
鋭い視線で
僕を貫く
頼むよベイベー
痛くしないで
嵐のような強烈ガール
雷光のように姿焼き付け
雷鳴のように奥まで響いて
稲妻のようにハート撃ち抜く
好きだよベイベー
致命的だよ
人はこの両手の分だけ
幸せを求めればいい
人はこの歩幅の分だけ
幸せを感じればいい
多くを求めてしまったら
きっと
何かを取りこぼす
きっと
何かを見損ねる
人はその掌の中の
幸せを分かち合えばいい
人はその進んでいく道の
幸せを感じ合えばいい
一人で求めてしまったら
きっと
何かを知らぬまま
きっと
何かが足らぬまま
人はその両手の分だけ
誰もかも愛せばいい
人はその歩幅の分だけ
誰もかも許せばいい
世界が優しく廻るよう
青白く光る身体で
朝の遠い闇を照らす
瑞々しい肢体を
震わせて吐息をつく
嬌声の混じる饗宴の中で
脱ぎ捨てた不要なものを
引き裂かれた過去の己を
一顧だにせずに朝を待つ
土に埋もれた魂と
風に吹かれる骸を見下ろして
儚げな色もまた
瞬きのように捨て去って
世界の競演に加わるのだ
未だ眠る暁の中で
小料理屋で食事をしていると
隣に旧友が座っていた
元気だったかと話し合っていたが
不意に既に逝った友だと気付いた
友に出された天ぷらはまだ湯気を立てていた
本を読んでいる
これは確かに知っている話だ
そう思いながら読んでいると
終わりのページは真っ白だった
知っている話だけれど
どうしても思い出せない
列車の窓から外を見ている
これはどこへ向かうのですか
切符を渡しながら車掌に訊いた
どこへでも
そう答えて連れて行かれたのは
ポイントだった
行き先を決めたはいいが電車に置いていかれた
十字路に立っている
どの道もまっすぐだが
その先が見えない
どこから来たのかも分からない
倒す棒も見当たらないので
とりあえずそこに寝転んでみた
足と頭と両腕がそれぞれの先へと伸びていった
足と腕は今何をしているだろうか
時計台の下で待ち合わせた
二時のバスで参ります
そう言った女は一向に来ない
掃除夫が
いつまで経ってもこねぇよと言う
ふと見上げると時計は止まっていた
三日三晩迷路の中で迷っている
お困りですか
顔のない紳士が訊いてきた
宜しければ出口に案内しましょう
連れて行ってもらったが
出口で顔を取られてしまった
迷路の中で次の客を待っている
葉書を書いている
出す段階になって気づいた
誰に出すのだったか
宛て先不明のまま
ポストに入れたが
誰に届けてくれるのか
ポストは口を開かなかった
葉書が届いた
読んでいくうちに
涙が出て止まらなくなった
差出人は誰かと
裏返してみたが
既に涙で滲んでいた
部屋の中を蚊が飛んでいる
羽音を頼りに追いかけていると
いつの間にか
森に迷い込んでいた
月の降らせた静寂が鳴らした
耳鳴りだと分かった
青い鳥を追いかけている
美しい氷原や草原
居心地のいい宮殿
心躍るキャラバン
たくさんの場所を廻った
たくさんの誘惑を断って
鳥を追いかけ
とうとう自宅に辿り着いた
ひと気のない寂れた我が家を見て
酷く残念な気持ちになった
鳥は涼しい顔で啼いている