背中越しの君の声
聞きながら帰った
二人乗りの自転車
懐かしい曲がり角
夕焼けに向かって走った
二人の秘密の場所
自販機のコーヒー
君はいつもブラック
宵闇が降りてきて
街灯が灯ったら
別れ難く接吻して
手を振って走った
背中越しの思い出
くぐもる声とぬくもり
今でも覚えてるよ
遠く時が過ぎても
スポンサーサイト
見えない敵がいるぞ
警鐘を打ち鳴らせ
見えない敵がいるぞ
水攻めで追い返せ
侵入してくるやつらは
大砲で吹き飛ばせ
突進してくるやつらは
防壁で跳ね返せ
見えない敵が来たぞ
山の向こうから来たぞ
見えない敵が来たぞ
追い風に乗って来たぞ
敏感なぼくらは
すぐに迎撃体制
鈍感な君らは
憐れむ目つきで見守る
見えない敵がいるぞ
目を真っ赤にして戦え
見えない敵がいるぞ
口と鼻をふさげ
雨の日の翌日には
大量に押し寄せる
今日は好い天気だ
哀しい合戦日和だ
(2007-02-28)
人にされていやなことは
してはいけません
己の尺度で考えても
おそらくは間違いではない
人にされて嬉しいことは
少し考えなさい
己の尺度で考えたら
時として間違えてしまう
物事の善悪を
誰かが教えても
それはきっと
世界共通ではないから
何事も
人にされたことならば
暫し考えなさい
己がすることに
照らし合わせなさい
己の尺度で測れることは
そう大きくも長くもない
手の届く範囲
目の届く範囲
だからこそ考えなさい
それが思いやり
(2007-02-22)
力の限り
叫べばいいじゃないか
あなたの夢を
あなたの希望を
力いっぱい
望めばいいじゃないか
あなたの明日を
誰かの愛を
我慢してたって
伝わらない
そのまま終わっていいのか
明日を無為に待ちうけていいのか
大声で
呼ばわればいいんだ
あなたの求める
あらゆるものを
足掻いた名残を
意外なところで見つける
運が良いか悪いかは
描いた絵では分からない
王が言ったとしても
加害者は誰だ
危害を加えたのは誰だ
苦界に落とされた者を
剣が威嚇する
戸外では嵐が渦巻く
差が一方的に開く
屍骸は放り出される
吸うがいいさ甘い汁を
世外には持っていかれない
疎外感を味わうくらいなら
互いに違えたことを知り
違いに愕然とするだろう
番いであったはずの二人の
手がいつの間にか離れ去り
戸が今はもう開かない
長い孤独の夜はつらい
苦い記憶が蘇る
縫うが良いさと麻を渡され
願いをこめて朝を待つ
ノーが言えずに夜も縫う
羽交い絞めにしたものは
被害妄想の小鳥
不甲斐無いと罵られ
塀がいたずらに逃げ回る
法外な祈りごと飛んでった
紛い物のロケットは
磨いても磨いても光らない
無害だと謳われても
目がいい者は騙されない
もがいているのは己だけ
野外の舞台には
ゆがいた野菜が躍る
要害の城壁で元気に育ったのだ
欄外に記されたメッセージ
利害関係は一致した
ルーが溶けてなくなる頃には
レンガ色の夕餉が並ぶ
労咳の音がどこかから聞こえている
我が意に反したものは全て斬り捨てよと
王が言い放つ
が今や彼の民はもういない
三月のせいだなんて
満月に向かって呟く
泣きたくなる気分も
壊したい衝動も
別れの暗示でさえも
すべてすべて
三月のせい
三月のせいだなんて
春風に飛ばして笑った
終わっていく予感も
戻れない後悔も
旅立つ焦燥さえも
すべてすべて
三月のせい
明日になれば
過ぎ去ってしまうかもしれない
来月になれば
忘れ果ててしまうかもしれない
でもこれは
すべてすべて
三月のせい
水を張った幾枚もの
田んぼに吹く風が
漣を立てて
砕けた夕日を映す
頼りない柔らかさで
列を成す
早緑の幼苗が
未来へと書き綴る
言葉のように
風にそよいで囁く
あぜ道を彩る
白や黄色や薄紫の
小さくも強い花々と
空を渡って家路を急ぐ
鳥の群れのシルエット
ここにはきっと
誰もが抱く
ノスタルジーがあるのだ
ここにはきっと
誰もが祈る
穏やかな日々が見えるのだ
春の日の
柔らかな日差しが
柔らかな草花が
柔らかな風が
心をほぐしていくのだ
埋めに行こう
私の屍骸を
捨てに行こう
私の遺骸を
梅の花咲く丘を越え
桜舞い散る山を越え
光溢れるあの野辺の
草の波間に墓を掘ろう
埋めに行こう
貴方の芝居を
捨てに行こう
貴方の依頼を
知っていながら騙されて
解っていながら絆された
三度縋れる手を伸べた
もろとも隙間に落とし込もう
埋めに行こう
私の屍骸を
捨てに行こう
貴方の遺骸を
膿めども癒えぬ疵を持ち
倦めども言えぬ瑕を持つ
光もとうに枯れ果てた
愛の狭間に死に果てよう
埋めに行こう
春の野へと
捨てに行こう
陽だまりの中
彼女の鎖骨には
湖がある
なだらかな稜線のふもと
水をたたえて
彼女の鎖骨には
人魚がいる
つややかな鱗を揺らし
笑みをたたえて
ぼくは時折
鎖骨の彼女に
挨拶をする
ぼくは時折
鎖骨の彼女に
接吻をする
彼女の鎖骨には
湖がある
それを飲み干してから
夜を撫でてく
(2007-02-20)
きみの欠点だね
どんな話もいつか
きみの話にすりかわる
きみの難点だね
どんなシーンもいつか
きみの視点に置き換わる
人の発言先回り
誰も思ってないのに
きみが主体の話を作る
自己顕示欲
さりげなさそうで強いから
ときに僕はうんざりするよ
だけどきみは努力家で
面倒見のいい良い人で
だから余計に言えないよ
きみの短所だよね
どんなことでもいつか
きみは気にしてすりかえる
きみの難所だよね
きみがメインの話を
僕は無理して無視をする
自意識過剰
自然なふりして強いから
ときに僕は困惑するよ
だけど嫌いになれなくて
近くて遠くて近いから
だから容易に言えないよ
僕も似ているよね
どんな話もいつか
自分の話にしたりする
だから僕には言えないよ
(2007-02-19)
形のないものを
言葉にしようとして間違う
変わっていくものを
どうにか留めようとして誤る
間違えてばかりだ
誤ってばかりだ
それでも
目に見えないものを
言葉で伝えようとしてみる
行き過ぎていくものを
切り取って遺そうとしてみる
感じ取った何かを
生きてきた証を
ひとつ
人よりも早くきみに
ふたつ
再び会えるように願う
みっつ
見つけて欲しいよどうか
よっつ
夜風に凍える前に
いつつ
いつか言った言葉も
むっつ
睦みあった日々も
ななつ
七色に光って見えたのだから
やっつ
やっつけてしまわないで
ここのつ
個々の罪も忘れてしまえる頃に
とお
遠くまで行こう二人で
(2007-02-16)
夜明けよりも早く
星の眠りの中を
駆け抜ける流星
水晶の梯子を上り
硝子の光を追って
銀の船に飛び乗ろう
小鳥達が群れをなす
天の川が雫を落とす
目覚めを誘って風が吹く
夜明けの藍の世界
星が瞬く空を
未来を載せた流星
のびやかな季節の
眠たげな瞳開けて
宇宙を駆ける船を見送ろう
ふわふわ
ふわふわ
ふらふら
ふわふわ
口どけのいいお菓子みたいに
軽やかに舞う綿毛みたいに
春風に乗るシャボンみたいに
ふわふわ
ふわふわ
ふらふら
ふわふわ
鳥が残した羽毛みたいに
風にはぐれた綿雲みたいに
弾けて香る小花みたいに
ふわふわ
ふわふわ
ふらふら
ふわふわ
夢の中へと彷徨い行くよ
幻追いかけ彷徨う幾夜
ただ好きなだけでは
どうして駄目なの
求めたくなる
愛を
見返りを
あなたを
ただ好かれるだけでは
どうして駄目なの
応えられない
愛も
見返りも
拒絶さえも
何も求めず
何も応えず
生きていくことは
不可能だというの
ただ願うだけ
幸せだけを
それじゃ駄目なの
こんなに風の強い日は
揺り起こすような風の日は
崩れた墓の石の下から
うずめた記憶が蘇る
百年も前の惨劇も
一昨年喪くした恋の火も
倒れた卒塔婆の隙間から
野草に紛れて蘇る
咲き誇る花を撒き散らし
囀る鳥の羽を毟り取り
こんなに風の強い日は
薄れた墓碑銘滲み出す
暴いてならない過去ならば
覗いてならない過去ならば
地中深くに閉じ込めて
風の止むまでやり過ごせ
こんなに風の強い日は
呼び戻すような風の日は
茂れる草葉の後ろから
殺した記憶が蘇る
(2007-02-14)
柔い身体をくねらせ
走る身体をしならせ
獲物を狙うきみは
濡れる唇で微笑み
光る瞳で射殺す
獲物を捜すきみは
目にもとまらぬ速さで
誰も気付かぬ速さで
誰かの心を鷲掴み
草原を走り抜ける
猫科の獣みたいに
獲物を捕えるきみは
大空を駆け抜ける
音速の機体みたいに
獲物を捉えるきみは
魅惑の指先で手招き
喉もとに喰らいつき
誰かの心を手の中に
きみになら
食べられてもいい
草食動物のふりで
逃げていくから
うつくしい仕草で
魅せつける手管で
ぼくの心をつかまえて
(2007-02-09)
あなたにあげるならば
甘く溶けるマシュマロがいいか
香ばしく軽いクッキーがいいか
きらきらと光るキャンディーがいいか
あなたにあげるならば
恋の花咲くブーケがいいか
共に刻める時計がいいか
毀れぬ絆の指輪がいいか
あなたにあげるならば
それとも甘いキス一つ
ラジオから聞こえてきた
懐かしい歌を頼りに
君の町へと向かうよ
変わっていく町並み
見知らぬ曲がり角
あの日見送った
背中が見える
今の君はどこで何してるの
今君の隣には誰がいるの
落ちていく夕日の中へ
アクセル踏み込んで行く僕に
ラジオが歌うよ
後戻りは知らない
夕焼けを追ってく
辿り着けるはずもないのに
助手席の地図には
意味のない印
まるで何かを告げるみたいに
今の君は何を歌ってるの
今君に僕は届くの
燃え尽きた夕日の中へ
スピード上げて飛び込む僕に
ラジオが笑うよ
思い知らされると同時に
なんとも言えず安堵する
煩わしさと同居して
諦観さえも漂わす
汝の名は女
満ち引きの汐の如く
満ち欠けの月の如く
緩やかに確実に変化する
母なるは星か海か
汝の名は女
迸る夕日の血潮に似て
蒼醒めた夜明けにも似る
朽ち果ての屍にも似て
豊熟の果実にも似る
汝の名は女
行かないよ
ここにいる
君がもう二度と
戻ってこないとしても
ここにいる
いつまでも
いつまでも
ここにいる
君の帰る場所は
いつだってあるのだと
ここにいて
示してる
示してる
ここにいて
君の夢抱きながら
温かく見守るよ
ここにいる
行かないよ
信じられるかい
君はそんな魔法
信じてやれるかい
笑ったりなんかせずに
それなら何も言えない
信じられるかい
君はそんな奇跡
信じてみれるかい
絶望したりなんかせずに
それなら何も言わない
ただ僕は
君の背中を見ていよう
いつか飛び立つことを信じて
大嫌いを
細かく刻んで
お鍋で煮込んで
スープのように
食べてしまおう
大嫌いを
とことん叩いて
混ぜてしまって
ハンバーグのよに
食べてしまおう
大好きと
混ぜ合わせて
大丈夫で
味調えて
大嫌いも
形がないほど
すりつぶして
身体にいいよと
食べてしまおう
それでも駄目なときに
大嫌いだと
言えばいい
( 2007-02-07)
春が来たよと
告げていく
見えない
誰かの
気配
お日様がほら
柔らかいと
微笑んだ
密かな
気配
眠気でさえも
愛しくなる
温もった
午後の
気配
ほころびそな
蕾を抱いて
楽しげな
花々の
気配
蜂蜜色した光
喉を潤して
囀ってる
小鳥の
気配
春が来たよと
告げていく
見えない
何かの
気配
(2007-02-04)
恋がしたいと思ってるけど
誰でもいいってわけじゃない
ぴったりきっちり当てはまるよな
パズルのピースの恋がいい
しっかりぴっちり合わさるような
手と手を取り合う恋がいい
恋をしたいと思ってるけど
誰でもいいってわけじゃない
だから違うよ諦めようよ
合うよで合わないピースだよ
よく見て拒絶をされてるでしょう
まったく似てない別物さ
恋がしたいと思っていても
誰でもいいってわけじゃない
だから間違うな小さき君よ
君の相手は人じゃない
世界をけぶらせ人を惑わせ
君の目指すは杉林
オレは普通の人なのに
オレはよくいる奴なのに
いったいぜんたいどういうわけで
スポットライトが当たるんだ
オレは何にもしてないし
オレは目立ちもしないのに
いったいぜんたいどういうわけで
白羽の鏃突き刺さる
それともオレは思ったよりも
有名だったわけなのか
或いはオレは思ったよりも
自他の評価が違うのか
オレは普通の奴なのに
たいしたこともしないのに
いったいぜんたいどういうわけで
名指しでオレが選ばれる
ご愁傷様といわれても
イマイチ何もぴんとこないが
ご心配なくといわれても
愁傷狼狽したくなる
オレは普通の小市民
オレはよくいる奴なのに
いったいぜんたいどういうわけで
こんなことになったのか
時折吹き抜ける一陣の風のように
不意に思うんだ
誰も僕を必要とはしていない
誰も僕を大事とは思っていない
今僕が姿を消しても
きっと誰もそれに気付かない
吹きすぎた風の行方を
誰も気にしないように
不意に思うんだ
誰も僕を上滑りしていく
誰も僕をひと撫でだけしていく
旅先の店の猫のように
きっと誰も明日には忘れる
吹きすぎた風の終わりを
誰も見たことないように
時折吹き抜ける一陣の風に
不意に兆すんだ
届きますように
君の声が
君の好きな人に
晴れ渡る空のように
澄み切った風のように
どこにいても受け取れますように
届きますように
君の想いが
君の大事な人に
新しい朝のように
欠けて満ちる月のように
いつであっても感じ取れますように
届きますように
僕の声が
僕の想いが
君に
誰かに
黄沙に吹かれて
燃える夕日が
ビルの谷間で
ぼんやり光る
象牙の塔を
目指した旅団が
テールランプを
点滅させた
涙零した
君は溜め息
風が揺らして
夕日が歪む
悲哀のせいか
砂のせいかも
見極めさせず
静かに泣いて
黄沙に吹かれて
消える夕日が
沙漠の王女
君を照らした
君たちが
明日を担うんだ
君たちが
未来を創るんだ
試行錯誤した大人たちが
思考錯綜したままで
混沌として混乱した世界を
持て余しながら言う
君たちが
国を担うんだ
君たちが
世界を創るんだ
慇懃無礼な大人たちが
陰険プレイで足を引っ張り
困惑した困難な時代を
もてあそびながら言う
明日が来るには
次代が来るには
今の担い手が
明日のためには
次代のためには
次の担い手に
今日を手本に
見せるのが肝心
誰もが
今を担うんだ
誰もが
未来を創るんだ
東奔西走の人々は
狂奔生存のために
こんなにも渾然な世界を
もてはやしながら言うんだ
(2007-02-02)