あげる
ぜんぶぜんぶ
あげる
かわいいきみに
あげる
どんなものも
あげる
どんなことも
きみがいらないっていうまで
きみがもういいっていうまで
あげる
ぜんぶぜんぶ
あげる
きみとひきかえ
元気かい
空に向かって手を振る
あれだよと
星に向かって指差す
雪降る夜の時計塔の下で
モザイクタイルの町並みの
中央広場の時計塔
皆が眠った雪夜更け
僕らは抜け出し空を見る
見えるかい
空に向かって広げる
届くかい
星に向かって呟く
雪降る夜の時計塔の下で
愛なんて呼べるほど
難しくはなかった
恋だよと言えるほど
簡単でもなかった
二人の間にあった
愛情の重さを
愛情の形を
愛情の深さを
言い表すには
言葉が足りなすぎた
愛なんて告げるほど
軽々しくなかった
恋なんて決めるほど
華々しくなかった
二人の間にあった
微妙な空気を
測れない距離を
強かった気持ちを
言い示すには
言葉は拙すぎた
君と暮らした
あの町が
不意に
瞼に
蘇る
君と過ごした
あの日々が
今も
心に
刻んでる
捨てたはずの瑕
もう痛まないけど
この空はどこでも
遠いから
時々君を思い出す
この空はいつでも
輝いて
あの日の二人も見た蒼さ
ヒミツの話
ナイショの話
誰にも言っちゃ駄目よ
魔法が解けちゃうから
ヒミツの話
ナイショの話
君にだけ教えたげる
僕らを乗せた船が
生まれた星へ還る頃
月の漣の向こうに
砂粒ほどの朝が見える
誰もが寝静まって
音一つない夢の中
寄せて返す時間も
朝を手繰り寄せはしない
僕らは糸を垂らし
朝が釣れるのを待つ
鱗煌めかせて逃げる
笑い声が船べりを叩く
そして次の月が
調べを奏でながら昇る
捕らえ損ねた朝は
目覚めぬ夢に潜る
それは
なんでもない
いつものような
朝の日の中で
だけどわけもなく
なにも
失わない
見逃さない
ただあるだけで
なのにすり抜ける
まるで
翻る光の尾鰭
まるで
迸る時間の水飛沫
まるで
駆け抜ける記憶の双翼
それは
なんでもない
いつもどおりの
朝の日の中で
だけど唐突に
君が生まれたその時
僕は多分空っぽだった
あるいは
空の青さに見惚れていた
君が生まれたその時
僕はおそらく呆けていた
あるいは
鴉が広げた翼を見ていた
君が生まれたその時
僕はきっと信じていた
あるいは
生まれたばかりの君になってた
そこに閉じ込めたままの
それが出てくるよ
目をそらしていたはずの
それが身じろぐよ
ほらうっすらと目を開けて
ほらゆっくりと立ち上がる
そこに封印したはずの
それが出てくるよ
血の色をした瞳で
こちらを見据えるよ
白い息吐きながら
小走りに急ぐ月の道
夜空に浮かぶシルエットの並木
潜り抜けて会いに行こう
渡せなかったチョコが
夜の中で凍って砕ける前に
会いに行こう
胸と抱えた小箱とを
ことこと音を立てさせて
戸を叩けなくて立ち止まる
部屋の灯りをみあげたままで
今宵私に翼があれば
あなたの窓まで飛ぶものを
白い息吐きながら
柔らかく晒される月の下
夜空に流れた星屑一つ
こつんと小窓に突き当たる
音に気づいたあなたの瞳
窓の中から見下ろした
消えてしまったあなたはやがて
微笑みとともに戸を開ける
君を想う寒い夜
甘い心乗せて
届けに行こう
星屑の降る中を
ふわり
冷たい朝の光に
きらり
輝く小さなシャボン
誰の仕業か
人影もなく
風の気紛れ
左へ右へ
ふわり
凍える朝の空気に
きらり
煌めく小さなシャボン
白く煙った
揺らめく膜は
白く漂う
吐息にも似て
ふわり
静かな朝の目覚めに
きらり
揺らめく小さなシャボン
どこへ行くのか
知る人もなく
風に彷徨い
ふわふわきらり
冬の蝶を追う
白銀の世界の中
蒼く光る蝶を追う
長い袖をひらめかせ
重みの無い様な足取りで
蒼く光る蝶を追う
君の素足が雪に遺した
浅い浅い僅かな窪み
舞い落ちる小雪に埋もれ
やがて君ごといなくなる
冬の蝶を追う
白銀の世界の中
ただ静かに沈みながら
蒼く光る蝶を追う
いいよ
いつでも
聞いたげるよ
いいよ
いつでも
呼んでいいよ
きみの
気持ちが
晴れるように
きみの
悲しみが
消えるように
いいよ
なんでも
聞いたげるよ
いいよ
なんでも
話してごらん
きみの
ココロが
癒されるよう
きみに
あしたが
とどくように
いいよ
あたしで
構わないなら
いいよ
あたしは
聞いたげるよ
どこまでも走り抜けて
君の耳元すり抜けて
春を運ぶ風になろうか
いたずらに舞い上がり
戯れに巻き上げて
困らせるつむじ風になろうか
便りを届けたり
噂を運んだりする
おしゃべりな風になろうか
鳥たちと旅をする
この星をひと廻りする
壮大な風になろうか
風になろう
時折君に囁く
風になろう
ほら
見てごらん
これが君の種だ
好きな場所を選んで
好きな時を選んで
蒔いてあげればいい
ほら
見てごらん
これが君の種だ
水をやってみたり
光を当ててみたり
好きに育てればいい
ほら
見てごらん
これが君の種だ
どんな芽を出して
どんな花になるか
君が決めていいんだ
僕は待っているよ
君に会えることを
僕は待っているよ
君と出会う時を
甘くてもいいじゃない
綺麗でもいいじゃない
大事に扱ってよ
壊れそうな飴細工みたいに
優しく扱ってよ
そして
噛み砕いてしまってよ