侵されていく
浸されていく
抗いがたい
その誘惑に
締められていく
占められていく
拒みきれない
その束縛に
逃れられない
挑めもしない
逆らいきれない
その吸引に
キャンドル揺らめく部屋の中
過ぎ去った記憶が立ちのぼる
涙に溺れて眠った夜の
縋り損ねた吐息にも似て
雫が波立つ夢には
優しい香りをあげよう
気持ちがざわめく風には
零れる記憶を流そう
アロマが包み込む部屋の中
戻れない記憶が蘇る
微笑に抱かれて眠った夜の
馴染み損ねた温度にも似て
閉ざして忘れたままの鍵も
今宵は取り出してみよう
確かにそれは幸福だと
知ってることを胸に刻もう
甘ければいい
喉を焼き尽くすほどに
胸を焦がしてしまうほどに
甘ければいい
あの人の言葉よりも
夜の齎す愛撫よりも
甘ければいい
感覚も麻痺するほどに
感傷も忘れるほどに
甘ければいい
味も分からぬくらい
正体も分からぬくらい
そして
その記憶だけ残して
全て消え去ればいい
これはようこそ
いらっしゃい
お求めの品は
なんでしょう
求めているのは品ではないと
求めているのは居場所だと
周りは幼稚で薄っぺらいと
見てくれだけで中身がないと
全てが醜く見難いのだと
息が苦しく生き苦しいと
なるほど
さようにお言いになるか
もちろん当然ございます
これなる品は舶来の
精巧極めし写真機なれば
写真に留めし画とともに
いかなる時代も留めし一品
十年百年昔であれど
千年万年未来であれど
お望みの場所を探り当て
撮影せしめてみせましょう
ひとたび閃光光ったならば
御身は望みのその場所へ
ただしお一つご注意を
かつて過ごせし場所の記憶は
ともに過ごせし時の記録は
全て何にも残りません
あなたはもとより居たように
その時代へと溶け込みましょう
ゆえに抱きしその想い
それも煙と消えましょう
そこで醜さを感じても
そこで生きるのが辛くても
それは新たなあなたなる
次のあなたが思うこと
ただしどんなに苦痛でも
たとえどんなに不満でも
やがて再びここへ来れるか
それは誰にも知れぬこと
それでも良ければさあどうぞ
そうとも
そんな日もあるさ
それでも
そのまま生きてくさ
そしたら
そのうち良くなるさ
そうとも
そのうち良くなるさ
それでも
そこから進めない
そういう
そぞろな日もあるさ
それなら
それでもいいものさ
そこにも
それなり意味がある
そうだよ
そこには君がいる
そうして
その先明日がある
そうとも
そんな日もあるさ
それでも
そのまま生きていけ
月のベッド
薄雲の天蓋を付けて
蜜色の月のベッド
星屑のシャンデリアが揺れる
柔らかに滑り落ちる
夢をまとって眠りにつこう
甘やかな手触りの中
夜にもぐって瞼を閉じる
月のベッド
緩やかに漂いながら
蜜色の月のベッド
星降りの子守唄に揺れる
知っていたかい
僕が君を好きなこと
知っていたよね
僕が君を見てたこと
知らない振りをするのなら
いま
君に見せてあげる
僕がどんなに君を好きか
落ちてくるのを待つ
湧いてくるのを待つ
最初の一文
ただそれだけを待つ
零れてくるのを待つ
溢れてくるのを待つ
最初の一文
ただそれのみを待つ
本当にただそれを
浮かび上がるそれだけを
流れに任せて待つ
自然に委ねて待つ
そして生まれる
最初の一文
そこから始まる
一つの作品
見つけて
見つけられて
探して
探されて
世界は大きな舞台
幾つものかくれんぼ
夢も
希望も
愛情も
友情も
いつの日か求め合う
幾つものかくれんぼ
探すのをやめないで
隠れることをやめないで
見つける楽しさを
探し当てられる嬉しさを
ドキドキを感じていこう
この世界は大きな広場
幾つものかくれんぼが
隠れてるんだよ
真っ赤な木の実
頬張って
甘酸っぱさに
くしゃくしゃになる
君の笑顔が好きだ
真っ赤な夕日に
手を振って
物悲しさに
くしゅくしゅになる
君の心が好きだ
真っ赤な情熱に
身をよじり
骨の髄まで
くにゃくにゃになる
君の手足が好きだ
真っ赤な血潮
通わせて
二人が溶けて
ぐしゃぐしゃになるほど
君の全てが好きだ
あなたのために甘くなりたい
蕩けるほどに優しくなりたい
抱きしめられたらあたたかくなる
くちづけられたらほどけてしまう
そんな私を愛してほしい
あなたのために甘くなりたい
涙の味も少し加えて
ヤキモチだって可愛く焼いて
あなたのために美味しくなりたい
見返りなんて欲しいわけじゃないけど
レスポンスは欲しいよ
あなたから預かった種
蒔いて咲かせて渡したのに
あなたの顔が見えてこないよ
気に入らなかったならそう言ってよ
無反応は寂しいよ
喜んでもらえたらなと
確かに願って考えたのに
手が掴むものは空虚だけ
感謝の気持ちの無理強いはしないよ
社交辞令でもいいんだよ
批評や批判でも
嘘でもお世辞も受け止めるから
繋がりくらい感じさせてよ
髪の毛よりも細くていいから
泡粒よりも脆くていいから
思いがけないプレゼント
ワクワクするような心持ち
あなたに会えて良かったと
本当に思えるこの気持ち
大好きだと言いたい心
それは掌じゃ足りなくて
それは両手じゃ足りなくて
腕で抱えてもまだ余り
溢れんばかりに満ちている
形にならないプレゼント
言葉にならないプレゼント
ねえ
そこは楽しいかい
ねえ
それは愉快かい
ひときわ高い所に立って
人を見下すつもりかい
理論武装で躍起になって
図星を避けてるつもりかい
地位の確立必死になって
足元見るのを忘れてる
位置の確率考えなくて
ただただ高さを求めてる
ねえ
それは楽しいかい
ねえ
そこは愉快かい
それなら好きに
なさればいいさ
いっそどこまでも
上がればいいさ
ねえ
一つだけ言っとくよ
ねえ
これだけは言っとくよ
足元を見ずに見下ろす君の
立ってる場所は棚の上
自分を必死に上げた挙句の
君の居場所は棚の上
のんびりした気分で
ゆったりした気分で
新しい始まりを
感じてみる
電話も鳴らない
仕事も来ない
時折
挨拶の人が
やってきては
過ぎていく
こんな緩やかな
始まりが
私には
ちょうどいい