どこまでも走っていく少年に
追いつけなかった夏の汀
早くおいでよと寄せて返す
冬の波間で手を招く
振り返らず去っていった少年に
届かなかった夏の水際
待っているよと囁きかける
冬の潮騒が冷たく微笑う
いつの間にか消えてしまった少年が
見つからなかった夏の渚
一緒にいこうと押し寄せてくる
砕けた飛沫に浚われていく
一緒に逝こうと浮かび上がった
弾けた泡沫に攫われていく
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昨日を走る時計の針を追いかけていけ
全ての記憶を串刺しにして
かちこち廻る時計の針を
昨日を駆ける時計の針を追いかけていけ
全ての記録を薙ぎ倒しながら
ちくたく廻る時計の針を
追いかけていけ
追いかけていけ
明日が来るよりそれより早く
追いついていけ
追いついていけ
そして
明日を廻る時計の針に飛び乗っていけ
私の掌から零れ落ちる砂を
月が静かに濡らしていく
うずめていく記憶の欠片たちは
冷たい夜気の中で息を潜めた
風が舞い上げた吐息の粒子
星屑のように凍り付いて舞う
貴方の頬を濡らすよりも早く
崩れ落ちて足元で嘆くだろう
凍てついた朝が訪れるよりも早く
全ての熱を滴らせて眠る
私の掌から零れ落ちる砂が
差し込んだ太陽の光に輝き
何も残っていないことを示すだろう
眠ったままなの
起こさないで
素敵な夢を見ているの
眠ったままなの
覚まさないで
綺麗な夢に揺れてるの
ああ
だから
眠ったままなの
どうか起こして
現も素敵と接吻をして
どうでもいいことを
なんでもないことを
飾り立ててみよう
めいっぱいに泡立てて
甘く甘く仕上げたメレンゲみたいに
ふわふわに膨らませてみよう
軽くったってそれがいい
どうでもいいことを
ささやかすぎることを
仕立て上げてみよう
これでもかって縫い合わせ
淡く淡く仕上げたレースみたいに
きらきらに縁取らせてみよう
薄くったってそれがいい
本を読まなくても
生きていけるけど
歌を聴かなくても
暮らしていけるけど
自分だけの人生
なぞるだけじゃ
分からないこともある
お茶を飲まなくても
生きていけるけど
お菓子が無くたって
暮らしていけるけど
スパイスの無い人生
送るだけじゃ
分からないこともある
理由なんて要らない
理屈なんて知らない
ただ
そういうこともあるってこと
(2006/10/30)
ふたりはとても似ていた
狂気と倦怠と愛情のバランス
ひとりはそれで愛を知り
ひとりはそれで夢を見た
抱かれても遠くを見ている
壊れてくあやうさを知ってる
どれだけ繋がっていても
繋ぎとめられないものはあるのだと
ふたりはとても似ていた
達観と諦観と客観のバランス
ひとりはそれで恋を読み
ひとりはそれで明日を聴いた
狂おしく静かに激しく
溺れてくあやうさを知ってる
どれだけ愛していても
愛しきれないものはあるのだと
ふたりはとてもよく似ていた
そして惹かれた
(2006/10/27)
腐っていく
朽ちていく
君と触れたその先から
唇も
指先も
髪の先から
胸の奥まで
晦んでいく
崩れていく
君と交じったその先から
視線も
言の葉も
出会う前から
未来永劫
いっそ二人きり
苦界の先まで
いっそこのまま
快苦の果てまで
行ってしまおう
逝ってしまおう
入れすぎた砂糖みたいに
甘い甘い日々だった
かき混ぜてもかき混ぜても
溶けきらないような日々だった
カップの底に
沈んでいくように
澱にも似た何かが
蕩けるシロップの日々に
溜まっていったね
白さを失って
形を見失って
なのに溶けずに
淹れすぎた紅茶みたいに
苦い苦い日々だった
薄めても薄めても
誤魔化せないような日々だった
喉の奥に
はりつくように
渋味に似た何かが
香り高かった日々に
澱んでいったね
色だけ美しくて
全てを染め上げて
なのに飲めずに
欲張ったりせずに
ささやかを選べば
一人分の砂糖とお茶で
日々は過ごせたのに
お茶を捨てるみたいに
新たな日々をいれよう
欲張らず見失わずに
一息つくような日々を
(2006/10/26)
世界は不思議だらけだよ
誰も答えなんか知らない
世界は不可思議だらけだよ
誰も答えなんて知らない
だからいいんじゃないか
だから追い求めるんじゃないか
君の感じたその謎は
或いは誰かが解いている
君の考えたその謎は
或いは誰かが説いている
だからいいんじゃないか
答えを調べて探すんじゃないか
何でもかんでも人に訊くな
自分の手で辞書を引け
自分の足で謎を解け
おめでとうを伝えよう
今生まれてくる
新しい生命たちに
楽しいことばかりじゃなくて
哀しいことばかりでもなくて
だから素晴らしいこの世界へ
ようこそと手を叩こう
ありがとうを伝えよう
今旅立っていく
燃え尽きた生命たちに
嬉しいことばかりじゃなくて
苦しいことばかりでもなかった
誰でもないあなたのその人生に
さよならと手を振ろう
たくさんの生命の
誕生と営みを
愛情の手で包もう
どんなに寒くっても平気
どんなに凍えても平気
そんな気持ちになるものよ
あなたが落ちてくるの待ってるの
どんなに辛くっても平気
どんなに痛くっても平気
そんな気持ちもあるものよ
あなたがやってくるの待ってるの
どんなに恋しくても平気
どんなに愛しくても平気
そんな気持ちはあるかしら
あなたが堕ちてくるの待ってるの
太陽の光を浴びて
ほころんだ花のような
君の笑顔が見たくて
ボクは君を笑わせる
君が悲しいときには
ボクはおどけてみせよう
北風が吹きつけても
遮ってみせるよ
太陽の陽射しみたいに
君の心を暖めてあげたい
自然に花開くように
包み込んであげたいんだ
どんなに強い木枯らしが吹いても
どんなに冷たい雨が降っても
笑っていられるんだ
ボクは君の
君はボクの
太陽なんだ
きみがいい匂いだったので
ぼく
きみを食べてしまった
一口だけよって言ったのに
ぼく
きみを食べつくしちゃった
あまくておいしいきみなので
ぼく
きみを食べてしまった
こまったな
もう
きみどこにもいない
だからぼく
旅に出るよ
きみと同じ匂いをさがして
きみとおんなじ甘さをさがして
きみがいい匂いだったので
ぼく
きみを忘れられない
(2006/10/24)
鉄塔の上から見下ろした
ぼくらの町は狭くて小さい
このまま飛翔したならば
きっと海まで届くだろう
配電線を綱渡りして
ぼくらの町を飛び越えていこう
幾つも塔を過ぎたなら
きっと空まで届くだろう
窮屈な靴を脱ぎ捨てて
ぼくらの町にさよならをしよう
踏みしめながら旅立ったなら
きっと明日まで届くだろう
狭くて小さいぼくらの町に
高くそびえた煙突一つ
歩きつづけて振り返ったら
さよならまたねと手を振った
電波塔から見下ろした
次の街は広くてでかい
このまま暮らしていくならば
あるいは野望に届くだろう
連なるビルの谷間で
この街は広くて狭い
前後も左右も空さえ小さく
なのに人だけ届かない
広くて大きく素早い街で
ぼくは迷って見失ってく
彷徨いつづけて振り返っても
誰もが止まらず横切っていく
遠い丘から見下ろした
ぼくらの町は夕日に光る
狭いからこそ隣の人に
きっと心が届くだろう
優しい優しいぼくらの町に
高くそびえた煙突一つ
見つめつづけて辿り着いたら
お帰りなさいと手を振った
(2006/10/19)
タンニンが染み込んだ水のような
暗い昏い紅の空
こんな夕暮れにはきっと
路地の向こうに
異空間が待っている
薄暗い路地の向こうで手招きしている
暗い昏い笑みの人
その姿を見極めることはきっと
出来はしないのに
きっとそこに立っている
通い慣れた道をいつもどおり帰りながら
暗い昏い路地を見る
こんな夕暮れにはきっと
その向こうの世界から
呼ぶ声が聞こえてくる
北の国に舞い降りた
初雪のニュースが流れてる
僕の町は青空だ
顔をちょっぴり赤く染め
半袖の子が走ってく
僕らの町はまだ暑い
狭く小さなこの国も
ホントはとても広いんだ
そして世界の広ささえ
僕に教えてくれるんだ
なんでもない顔して
すっぱりと切り裂くんだ
敵意なんてなさそうに
飄々と斬りつけるんだ
疼く痛みを残して
ひらひらと去っていく
君はそんなものに似ていた
傷口は滲み出るだけ
たいして目立たないのに
本当は深くまで傷を付けて
不覚だったと落ち込ませるんだ
ほんの恐怖を残して
ひらひらと去っていく
君はそんなものに似ていた
奔放でなんにでもなれて
裏も表もあるような
ときに折れたり
ときにやぶれたり
従順そうに見せておいて
素知らぬ顔で豹変する
君はそんなものに似ていた
君に贈ろう
感謝を込めて
君に贈ろう
愛情込めて
だけど一体
何がいいかな
君は一体
何が好きかな
近くにいるのに
分からないんだ
近くにいるから
悩んじゃうんだ
君に贈ろう
心を篭めて
君に贈ろう
言葉を添えて
君はなんでも
嬉しがるだろ
君はなんでも
喜ぶんだろ
だからまだまだ
決まらないんだ
だけどそろそろ
決めたいんだ
君に贈ろう
どうしても動けない時には
動かなくてもいいんじゃない
無理やりもがいてみたところで
疲れてしまうが関の山
どうしても動けない時には
動かなくてもいいじゃない
無理やりあがいてみたところで
精根尽きるが精一杯
波のまにまに漂ってみたら
風の気ままに吹かれてみたら
うまく行くこともあるんじゃない
どうしても動けない時には
待ってみるのもいいんじゃない
無理やり抗ってみたところで
たいした結果は出ないかも
奥歯に挟まったままの言葉
舌で突付いても
指で探っても
どうしても取れないまま
大事だったはずなのに
伝えたかったはずなのに
今はもうただ
煩わしいばかりの存在
喉に引っかかったままの言葉
飲み込もうとしても
取り出そうとしても
どうしても刺さったまま
重要だったはずなのに
言わなきゃいけないはずなのに
今はもうただ
鬱陶しいばかりの存在
あたし
何が言いたかったのかな
気付いたら無くなってしまった言葉達
信じることを忘れたら
きっと子供じゃいられない
信じることを失くしたら
きっと生きてはいかれない
知らないことを信じてごらん
知らない世界を夢見てごらん
羽持つ黒猫
宇宙の羊
鯨の卵
空飛ぶトナカイ
誰かの愛情
明日の朝日
本気の笑顔
明るい未来
見えないものを信じてごらん
見たことないもの夢見てごらん
宝の地図や
秘密の裏庭
もの言う鏡に
水晶の塔
溢れるぬくもり
宇宙の果てや
時間の始まり
眩い希望
信じることを忘れたら
きっと子供じゃいられない
信じることを失くしたら
きっと生きてはいかれない
信じてごらん
信じてごらん
わたし
今日は朝からお風呂
ふやけそうなほど身体を磨いて
あたたまってるの
あなたのために
白く
濁った入浴剤で
美しさに磨きをかけて
頑張ってるの
あなたのために
お湯が冷めたら入れ替えて
わたし
今日は一日お風呂
沁み込むほどに身体を浸して
あたたまってるの
あなたのために
だから最初はわたしをえらんで
つるつるたまご肌の
彼女なんかより
だから最後はわたしをえらんで
ふっくらもち肌の
あの子なんかより
いやね
泣くほど感動しなくていいのよ
わたし
今日は一日お風呂
身体のすみまでじっくりと
美味しくなるわ
あなたのために
いやね
泣くほどカラシを付けないでよ
(2006/10/16)
泣かなければ泣いてないなんて
笑わなければ笑ってないなんて
言いたければ言うがいい
怒らなければ怒ってないなんて
平気そうなら痛くないなんて
思いたければ思うがいい
目で見えるものしか見ない人に
誰の心が分かるというの
目で見ることしかしない人に
誰の心が見えるというの
倒れないから大丈夫だって
傷付かないから丈夫だって
言いたければ言えばいい
哀しんでるから可哀想だなんて
苦しそうだから疲れてるだなんて
思いたければ思えばいい
自分の尺度でしか見ない人に
誰の痛みが分かるというの
自分の尺度しか知らない人に
誰の辛さが測れるというの
自分の言動すら見えない人に
誰の声が届くというの
自分の責任すら負えない人が
誰に罰を科せるというの
(2006/10/10)
雨が降って
あなたの背中隠す
濡れる午後を
手放した哀しみ
届かないものを
いつも諦めてた
暗い空にもいつか
光が射すのに
折れた傘の下で
俯いてばかりだ
目を上げればそこに
虹の輪が見えるはず
けぶる街角に
あなたの姿消える
夢見た日々に
失った人影
汚れた靴のままで
立ち止まってるだけ
水溜まりにはほら
青空が映るのに
倒れ伏した身体は
濡れそぼつばかりだ
目の前に差し延べる
微笑みに気付かない
雨の向こう側は
すぐそばにあるのさ
目を向けたならそこに
澄んだ空が覗く
冬が来る
言葉だけを乗せて
冬が来る
強い日差しのままで
星は光り
空気は澄む
風は涼しく
月を零す
草木は赤く
ときに黄色く
静かに舞って
やがては眠る
冬が来た
感じだけ乗せて
冬が来た
汗ばんだ陽気の中で
空は青く
透き通って高く
雲はたなびき
光を落とす
心は静かに
ときに切なく
涙にざわめき
やがては眠る
冬が来る
誰かの上で
冬になる
暦の上で
やあやあようこそ
いらっしゃい
これは小さなお客様
いかなる品をお望みで
クジラが欲しいと仰せですか
もちろん揃えてございます
硝子に陶器
ゴムに布
文鎮
香炉
風船
人形
手乗りクジラも
空飛ぶクジラも
何でも揃えてございます
いやいやそんなものではないと
正真正銘のクジラがいいと
なるほど
もちろんございます
これなる卵はクジラの卵
そうともクジラでございます
汲み上げてきた海水の
中にぽとんと落としたら
あとはむくむく成長し
やがてクジラになりましょう
ただしお一つご注意を
これなるクジラはよく育つ
一晩寝ればふた倍に
二晩寝れば四倍に
八倍そして十六倍
ほんの十日で千倍に
それでも捨ててはなりませぬ
最後のときまで面倒見ると
誓えるのならば売りましょう
守れなかったらどうなるか
クジラは哀しみ荒れ狂い
あなたを町ごと飲み込んで
遠い海へと去るでしょう
深い海へと還るでしょう
それでも良ければさあどうぞ
深い深い海の底で
生まれた一粒の泡
君はそれを見ている
時間をかけてゆっくりと
水面へと昇っていく
滄溟の中の一粒の泡沫
覗き見るならば
蒼銀色の輝きの中に
隠された物語を知るだろう
魚の群れに
潮の流れに
翻弄されながらも
並ぶ泡沫に
光る鱗に
ぶつかり溶け合いながらも
君の見ているその物語は
浮きつ沈みつ
水面を目指す
仰ぎ見るならば
光砕ける波間の中に
君と泡は浮かび上がる
はじけて広がった物語こそ
君の見た世界だ
蒼い蒼い海の底で
生まれた一篇の世界
君はそれを語りだす
ここに一つの物語がある
それをまだ誰も知らない
まるで昨日の夢のように
まるで過ぎ行く風のように
誰もまだ
それを繋ぎとめられない
ここに一つの物語がある
それをまだ誰も見てない
まるで忘れた記憶のように
まるで海辺の貝のように
誰もまだ
それを拾い上げられない
ここに一つの物語がある
それをいま君に語ろう
痺れる
全身に毒が廻る
このままきっと
死んでしまう
溺れる
全ての息が絶える
このままきっと
消えてしまう
堕ちてく
全くの闇に呑まれる
このままきっと
戻れなくなる
凍える
全ての熱が消える
このままきっと
忘れてしまう
他の誰も気付かなくても
他の誰も感じなくても
これは死に至るほどの罠