忘れないで
ここにいたこと
失くさないで
ここにいたもの
今はもう
見えなくても
忘れないで
ここにいたこと
覚えていて
ここにいたもの
あの時世界は
不思議に満ちていたこと
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打ち上げ花火に掴まって
月まで飛んでいこう
銀河を渡る船がほら
ぼくらを待って泊まってる
赤い赤い火星に行こうか
それとも不安な冥王星へ
いっそアンドロメダまでも
発着場から船出して
星まで漕いでいこう
星々を繋ぐ汽車がほら
ぼくらを待って停まってる
遠い遠い果てまで行こうか
それとも不思議なホールの中へ
いっそ時空を超えてまで
汽笛を鳴らして汽車が出る
どこまで乗っていこう
星系を跨ぐ夢がほら
ぼくらを待って止まってる
長い長い旅に出ようか
それとも青い故郷の星へ
いっそ気のまま足のまま
名も無い星まで行ってみようか
太陽忘れて行ってみようか
ぼくらを待って留まってる
夢の果てさえ超えてみようか
(2006-08-31)
ありがとうと
言える人でありたい
エレベータで待っててくれる人
次の人のために扉を支えててくれる人
路地から出てくる車に道を譲ってくれる人
落としたものを一緒に拾ってくれる人
レジでお先にどうぞと言ってくれる人
小さな心がけ一つで
世界は円滑になるから
ありがとうと
言える人でありたい
ありがとうと
言われる人でありたい
(2006-08-30)
朝露に濡れた私の庭で
小鳥が鳴くよ
赤く色づく果実の枝で
小鳥が鳴くよ
朝日が照らした私の庭で
小鳥が鳴くよ
赤く色づく小さな胸に
小鳥が鳴くよ
甘い雫で
喉を潤し
明るい光で
羽をあたため
歌を唄おうと
小鳥が鳴くよ
おいでおいでと
小鳥が鳴くよ
朝露が濡らす私の庭で
小鳥が啼くよ
赤くはじけた果実の枝で
小鳥が啼くよ
朝日が晒した私の庭で
小鳥が啼くよ
赤くはじけた小さな胸に
小鳥が啼くよ
滴る雫で
喉を潤し
光で血塗れた
羽をあたため
血潮に濡れた私の庭で
小鳥が啼くよ
赤く色づく血肉と骨で
小鳥が啼くよ
諱を謳おうと
小鳥が啼くよ
おいでおいでと
小鳥が啼くよ
おいでおいでと
小鳥が泣くよ
誰になりたい
何になりたい
大金持ちか
宇宙飛行士か
彼のあの子か
秋の夜風か
路傍の花か
鳴かぬ蛍か
誰になりたい
何になりたい
美貌の人か
本の主役か
親しい友か
綺麗な石か
眠れる獅子か
庭の小鳥か
誰になりたい
何になりたい
あなたになりたい
あなたはいないか
私になりたい
私はいないか
アタシが好きなのは
キミの事よりも
アタシのこと
アタシが大事なのは
アナタの事よりも
アタシのこと
だってそうでしょ
自分なんてどうでもいいなんて
そんな人に好かれたい?
自信がなくても
自身が好きで
だから誰かを
好きになれるの
アタシが好きなのは
キミのことを好きな
アタシのこと
アタシが大事なのは
アナタを守りたい
アタシのこと
目を閉じて考える
口を開く前に
息を吸って考える
眉を上げる前に
怒れる時には
少し
待ってみる
目を閉じて考える
言葉にする前に
息を吸って考える
睨みつける前に
怒れる時こそ
少し
待ってみる
あまりに蒼い月夜だったので
そぞろ歩きをしてみた
目的もなく
ふらりふらりと
影と連れ立ち
ゆらりゆらりと
あまりに沁みる月夜だったので
眠る夜道を歩いた
足に任せて
ふらりふらりと
影につられて
ゆらりゆらりと
あまりに胸に沁みる月夜で
不意に涙がこみ上げた
それでも道は
ふらりふらりと
影が手招き
ゆらりゆらりと
あまりに切ない夜の散歩に
不意に影が囁いた
落ちる涙が
ふわりふわりと
月に向かって
ゆらりゆらりと
あまりに蒼い月夜だったので
蒼い涙が浮かんで消えた
月に誘われ
ふわりふわりと
夢に連れられ
ゆらりゆらりと
月見団子が光る
薄が呼ぶように揺れる
秋の虫が奏でる
風の歌の調べ
盃に映った叢雲を
酒ごと飲み干してしまう
肌に触れる夜気が
僅かに変わる夜半
冴え渡る光が
音もなく辺りを照らす
美酒を満たす杯が
客人を待ち受ける
白々と零れる
団子を一つ空へ投げて
身代わりとしながら
甘露を飲み干す月
君を乗せた船が
月の光に照らされて
ボクの頭上を越えていく
少しいびつな丸い月が
ボクらが見る
最後の同じ月
十五夜の晩に行くの
月の光に良く似た
君の静かな微笑みに
少しゆがんだ口元で応えた
ボクの顔は
笑っていたかな
君はウサギのように
軽やかに跳躍して
ボクの頭上を越えていく
ボクは隠したウサギの瞳で
船を見上げる
同じ月の下で
ここには
たくさんの人が倒れている
もう生きてはいないだろう
外は雨が降っている
濡れながら家路を急ぐ
時折崩れた人影を見る以外
誰に会うこともない
それでも構わず
家路を急ぐ
辿り着いた家では
裏の家へと壁をよじ登る
バイクに乗った男が見える
非常識だと憤慨すれば
裏の家から老人が一人
非礼を詫びるかと
待っていたらば
バイクの男を詰りつける
この花を踏んだらなんとする
言うや否やに花を引き抜き
大事に抱えて持ち帰ろうと
まるでこちらは眼中にない
思わず呼び止め叱咤する
待て待てそれは我が家の花で
そもそもここは我が家の敷地
弟子も弟子なら
師匠も師匠だ
一体全体なんとする
叱り付けても涼しい顔なので
いっそそれなら実力行使
腕をねじ上げ動きを封じた
途端にそいつの腕が外れた
ああそうなのか
そうであったか
世界はどうやら
花泥棒だらけだ
ビーズで作った花びらは
甘い香りはしないけど
ビーズで作った水滴は
零れて落ちたりしないけど
私の腕できらきらと
やさしい光を抱くでしょう
私の胸でさらさらと
やさしい歌を歌うでしょう
タオルで作った仔ウサギは
可愛く跳ねたりしないけど
タオルで作った白鳥は
空を飛んだりしないけど
私の腕にふかふかと
やさしい愛を見せるでしょう
私の頬にするすると
やさしい手触りをくれるでしょう
鉛筆で塗った海岸は
波が寄せたりしないけど
鉛筆で塗った青空は
雲が流れはしないけど
私の前でひらひらと
やさしい風にそよぐでしょう
私の指でくるくると
やさしい夢を見るでしょう
ビーズで作った花束は
けして香りはしないけど
タオルで作った動物は
けして鳴いたりしないけど
鉛筆で塗った草原は
けしてそよぎはしないけど
私の中でゆるゆると
やさしいホントになるでしょう
(2006-08-28)
違う世界に入り込む
心半分こちらにいても
違う世界に紛れ込む
身体全てをここに置いても
だから私は
映画を観るし
だから私は
本を読む
違う世界に迷い込む
ときに時間を忘れ去っても
違う世界を創り出す
ときに続きに悩み込んでも
だから私は
話を書くし
だから私は
夢を見る
ゆめを見た
誰もいない
なにもかも
なかった夢
寒い風だけが
あたりを撫で
ただ風だけが
吹いて行った
動じぬ世界には
私などいなくて
どこかへ消えた
あとさえ残さず
たばねられた心は
かがやきを喪って
こわいほど閑かな
満たされぬ夢の音
たしかなものは無く
風の声が掻き消して
聞こえるものも無く
例えば目覚めも遠い
ただ閑かな静かな夢だ
15:閑夢
(2006-08-25)
キスをしたい
噛んで
舐めて
吸い上げて
赤く色づくほどに
キスをしたい
囁きたい
耳元で
啼くように
囁いて
身震いを
感じたい
突き入れたい
全てを
味わって
苦しげに
身悶える
姿を見たい
甘い香りで
惑わせて
汗ばむ肌で
誘い込むから
キスがしたい
9歳の夏
あたしはウィルビーと一緒だった
白くて清潔な仔熊
お日様に会いに行くときも
月夜の夢路に行くときも
一緒だった
抱き上げてしまえるほど軽くて
抱きしめてしまえるほど小さい
なのに
抱きとめるかのように頼れるウィルビー
よく晴れた青空に目を細めると
睫毛に溜まった光の粒が見えることや
いきなりの夕立が訪れると
溶けた道路の上に白い雲が出来ることを
よく冷えた麦茶の入ったグラス
浮かび上がる水滴にいくつもの話があること
いきおいよく回る扇風機の羽根に
話し掛ける秘密の呪文があることを
あたしの膝の上で
あたしの腕の中で
教えてくれた
ふわふわの毛並みの
青い瞳のウィルビー
10歳の夏には
ウィルビーはいなかったけど
あたしは冷凍庫の白熊を食べながら
あの仔熊を思い出して探した
今でも覚えている
9歳の夏
あたしはウィルビーと一緒だった
14:九夏
(2006-08-24)
友人と酒を酌み交わしている
寒い寒いと言うので
もっと飲めよと勧めてやったが
もう寝るよと言って
墓石の下に戻っていった
雨が降ってきたので
傘を差して出かけた
思ったよりも肌寒いと思っていると
あなたそれはヒガサよ
通りすがりの人に言われた
氷傘を握っていた手から
ゆっくりと凍えていたのだった
女と二人
布団の中に潜っている
お前の肌は冷たいんだなと言うと
あなたが熱いのだと言ったきり
水になって溶けてしまった
抜けるような白い肌の女だった
月の白く冴える夜に
今夜は冷えると呟くと
そんなナリだからだよと笑われた
全身がブリキで出来たロボットだった
寒いはずだと呟くと
そんなナリなのにかと笑われた
温度など関係のないロボットだった
途端に平気になってしまった
月が呼ぶので会いに行くことにした
酒と肴を用意して
屋根の上で迎えを待った
いつまでたっても来ないので
仕方なく一人で飲みながら待った
朝日が呆れたように昇って
ヤツならとっくに酔いつぶれたと告げる
すっかり風邪を引いてしまった
冷えたので風呂に入ることにした
湯船の中は水の温度だ
沸かしますから待っててください
女に言われて追い出される
濡れた身体が外気で冷えたので
思い切って浴槽に飛び込んだ
元と同じ温度なのに温かい気がする
ああこれは女の愛情の温度なのだ
死んでも馴染んでしまおうと沈み込んだ
いつの間にか隣で女が微笑んでいる
ほろ酔い気分で帰っていたところ
闇が喉笛に喰らいついてきた
酔いとともに流れ出るぬくもりが
夜気を少し温かくしていた
代わりに自分が冷えていく
道を歩いていると突然
思いがけない底なし穴に落ちた
腹の底がきゅうっと冷えたが
一向に落下が終わる気配がない
あちらに着いたら強い酒を呑んで
少しでも温まろうと思った
まだ落ちていく
地下のバーで酒を呑んでいる
空調が効きすぎているので
マスターに文句を言った
仕方ありませんよ猛暑ですから
涼しい顔で言っておかわりのグラスを寄越す
彼岸というのに腐ってしまう
そういうことなら仕方がない
曼珠沙華のランプの中で
遠来の客たちは静かに酒を呑んでいる
友人と酒を酌み交わしている
ちっとも酔わないなぁと言うので
もっと飲めよと勧めてやったが
もう帰るよと哀しげに言った
そうか俺はもう死んでいたのだったかと
墓石の下から思った
目の前で緩やかに
伸びていく七色の梯子
雨の気配もないのに
光る空に繋がる
街を駆け回って遊んだ
天使たちの帰り道
伸びていく七色の梯子
金色に光る空に
星を散りばめるため
ナイショの話をしてあげる
だから今宵
こっそりと出ておいで
ナイショの話をしてあげる
だから月にも
星にも隠れて出ておいで
人差し指を口に当てたら
それが合図
夜に紛れて出ておいで
ナイショの話をしてあげる
だからこっそり
出ておいで
青い場所
君のいる
青い場所
光る星
君のいる
光る星
手を振って
飛び跳ねる
僕の影
君の夜に
届けるよ
蒼い夜に
青い星
君のいる
青い星
ひとぉつ
ふたぁつ
数えて幾つ
眠りの森は
まだ遠い
みぃっつ
よぉっつ
数えて幾つ
語れる夜は
まだ足らぬ
いつぅつ
むぅっつ
数えて幾つ
零れる夢は
まだ満ちぬ
ななぁつ
やぁっつ
数えて幾つ
両の手指は
まだ折れぬ
ここのつ
見つめて
数えて幾つ
微笑む朝は
まだ明けぬ
とおの夜には
数えて幾つ
千の砂には
まだ秘密
こんなに空の高い日は
こんなに空の蒼い日は
きみの背中に翼が見える
きっとこのまま飛んでいく
こんなに風のそよぐ日は
こんなに木々の揺れる日は
きみの踵に羽が見える
きっとこのまま翔けていく
こんなに星の光る夜は
こんなに月の凪いだ夜は
きみの瞳に虹が見える
きっとこのまま消えていく
こんなに綺麗に見える日は
こんなに素敵な夜ならば
きみの姿が夢に見える
きっとこの手をすりぬける
もはや花は
開き果てて
枯れた
誇る色香は
褪せて果てて
朽ちた
もはや果実は
熟れ果てて
落ちた
匂う果肉は
腐れ果てて
饐えた
もはや誰も
見るものは
いない
もはや誰も
愛でるものは
いない
もはや季節は
盛りの頃を
終えた
だから誰も
見向くものは
いない
そして季節は
静かに流れ
過ぎて
そして密かに
眠れる種が
芽吹く
やあ
ようこそ
いらっしゃい
此度は何を
お求めで
ははあ
なるほど
これは奇異なる
老いる薬をお求めか
年のころなら
十九か二十歳
明るい未来があるものを
一足飛びに
七、八十と
奇異と言わずになんとしょう
若気の至りとは
言いませぬ
若さの過ちとは
申しませぬ
恋は異なもの縁なもの
古今東西恋などは
過つものであるならば
口出しなどは無粋です
もちろん当然
ございます
当店なれば
ないものはない
ここにこれなる
切子の壜は
新月の露を
集めたる
蒼く揺らめく
闇の雫は
陰り落ちたる
極みなり
一口飲めば
ひとまわり
二口飲めば
ふたまわり
十年ぐるりと
老いましょう
ただしお一つ
ご注意を
これなる薬は
新月の
見えぬ光の雫なり
闇の光に引きずられ
ともすれば
月が待ち受ける
三日月色の鎌を持つ
笑みが背後で待ち受ける
それに負けぬと仰せなら
これをばどうぞ
お持ちあれ
遠くで聴こえるあの鈴の音は
あれは風鈴ではありません
あれは鈴虫の鳴く声です
あの子の軒先に吊るしていた
思い出の風鈴はもう
とうに仕舞われてしまいました
あの子の庭でなくのはあれは
秋の虫たちなのです
あの子の泣き声ではありません
確かめに行こうなどと
考えてはなりませんのです
きっと虫が鳴き止んでしまいます
遠くで聴こえるあの鈴の音は
あれは
夏が終わっちゃう
海に行かないうちに
肌も焼かないうちに
恋さえもしないまま
このままじゃ
まるで冷蔵庫の中
忘れられたアイスみたいに
スプーン投げ出しちゃうほど
かたくなになってっちゃう
賞味期限はないけれど
美味しく食べるなら
攻撃的な太陽の下で
ああ
夏が終わっちゃう
恋さえもしないまま
このままじゃ
まるでクロゼットの中
隠れたままのワンピースみたい
目を瞠るほど可愛くても
肌寒くなってっちゃう
大事に仕舞っているけれど
可愛く着こなすなら
魅力的な太陽の下で
真夏日が続くうちに
誰かあたしを蕩かして
誰かあたしを連れ去って
(2006-08-24)
君を見た
こんなところに
いるはずもないのに
君を見た
雑踏の中
笑顔を浮かべた
君を見た
記憶の隅で眠ってた
遠い昔の君なのに
一目見て
君と分かった
こんなところに
いるはずもないのに
近付けば
声が違う
近付けば
細部が違う
もしかしたら
そうかもしれない
だけど
君を見た
夜空を滑る流星を拾つて
闇の中に線を引かう
パチパチとスパアクする
欠片たちを集めて
道路の上に白墨のやうに
様々の線を引かう
しんとした夜気の温度で
道路が冷えていくだらう
流星のスパアクが
線香花火のやうに
光つているその下で
死人の温度になるだらう
さうしたら私は
線の上に寝そべつて
空に浮かぶ点を見つめ
世界の反転を見届けやう
私の下に描かれてゐるのは
此れは星図に成り損ねた
流星の描く星座なのだ
08:星点(星ハ点ズ)
(2006-08-18)
光る白い貝殻で
光る白い砂浜を掘った
光る白い波が押し寄せ
光る白い想いを埋めた
光る白い夜だった
光る白い月日が流れ
光る白い夜明けが来たら
光る白いあなたはいつか
光る白い電車に乗って
光る白い海辺を目指す
光る白い浜辺に立って
光る白い涙を流す
光る白い雫が落ちて
光る白い砂子を濡らす
光る白い波のよに
光る白い砂粒の中
光る白い芽を出して
光る白い花が咲いたら
光る白い指先で
光る白い想いを摘んだ
光る白い鱗を持った
光る白い小魚が
光る白い歯で語る
光る白い夢想を聞いて
光る白い夜に寝る
(2006-08-18)