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明日で世界が終わると言う
差し当たって
やりたいことも
会いたい人も思いつかず
眠ることにした
終焉が近づく頃に目覚めてふと思った
自分のところにも誰も来なかったんだな



長いこと塔に閉じ込められている
ぼんやりと地上を眺めていると
白馬の王女がやってきたので
ここから出してくれないかと言うと
呆れたように肩を竦めて
塔を蹴り倒してくれた
この場合やはり彼女に恋するべきかと
暫く悩んで顔を上げると
王女は既にどこかへ行った後だった



風が強いので身の軽い彼女は
僕に会いに来られない
僕もまた外に出られない身だ
そんな難儀な恋はやめてしまえと
友人が言ったが
難易度で恋をするものではないと
僕は誇らしげに答えた
その途端
ここ数年彼女と会ってない事を思い出した
すでに彼女の顔も名前も忘れていた



この海岸には死体が流れ着くのですと
隣に立っている男が言った
見ていると遠くから何かが流れてくる
打ち上げられたものは
どう見ても私の恋心だった



ホテルのラウンジで
酒を飲みすぎたらしい
部屋へ戻るエレベーターは
なぜか月に到着していた
目の覚めるほど青い星が
頭上でウィンクしていた
その引力に惹かれて
気づいたときにはホテルのベッドにいた
暫くこの星の魅力から離れられそうにはない



指に目をやると
赤い糸が結んである
これはいわゆる運命というヤツだな
そう思いながら手繰っていたが
一向にその先に辿り着けない
いいかげんくたびれたので
通りすがりの老婆に
糸切り鋏を借りてちょん切った



庭先で小鳥が煩い
見ると電線の上で
一生懸命囀っている
何をそんなに必死なのかと問うと
離れ離れの恋人に
落ち合う場所を電話しているのだと鳴く
電線の意外な利用者を知った



チョコレートが食べてくれと言う
かわいらしい少女の形のそれを
頭から食べるか足から食べるか悩んでいると
じれったそうに頭から飛び込んできた
あっという間に蕩けて全身に甘さが廻る
まるで毒のような恋だと思った



骨董店でティーカップを手にしている
一目見て気に入った
それは喪った片割れを探しているカップだと
顔の見えない店主が言った
それなら私が探してやろうと告げると
ご心配には及ばぬと言われる
気づけば私自身がカップになっていた
仄暗い陳列棚に並んで
甘いお茶を待つ羽目になった



私を抱いているのは
紛れもなく昔の恋人なのだが
どうしても見覚えがない
誰かと問うことも出来ずに
ぬくもりに身を任せていると
一つだけ分かった
あちらも私が誰なのか
分からないらしかった
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2006.09.19 Tue l 花膳 l コメント (6) トラックバック (0) l top
ここに空がある

ここに土がある


昇る太陽が笑んで

昨夜の雨を照らす

濡れた土がひとつ

溜め息を吐いた

揺れる空気は上へ

空を目指して進む

天と地とを繋ぐ

水の線を引いて


落ちたものは上り

上るものは落ちる

そして雲となって

やがて雨に変わる


ここに空がある

ここに土がある

循環の線の中で

生命もまた巡る


33:引雨(雨ヲ引ク)
2006.09.19 Tue l 花膳 l コメント (2) トラックバック (0) l top