FC2ブログ
驟雨に見舞われたので
逃げるように歩いていると
見知らぬ路地にいた
抜けた先は黄昏れている
世界なんてただ一歩で変わるのさと
誰かが呟いていた



八百屋の店先に
両手でやっとの
大きな桃が売られていた
食べようと皮を剥くと
笑い声とともに蜜が滴り
あっという間に呑み込まれた
疾うに旬は終わっていたらしい



魚屋の店主が
活きの良いトビウオがあるよと言う
見ると水槽に翼を持つ魚がいた
求めて放してやると
薄暗い空に消えていった
白い羽根だけが落ちてきた



神社の境内で一休みしていると
穢れは落とさねばならんと
宮司が言った
手水舎で口を漱ぐと
黒い何かが飛び出した
見極める間もなく
狛犬が食べてしまった



店先の窓を覗いていると
背後に女が映った
ずっとお慕いしていましたと
百年も前の女が言う
待つよりも生まれ変わってくれれば
抱きしめてやれるのにと
哀しく思った



蕎麦屋を見つけたので
入ってみると
店主を挟んで
狐と狸が喧嘩をしている
掛け蕎麦を頼んだが
言い合いに阻まれて
結局店主には通じなかった



花屋の店先で花束を選ぶ女がいた
どれがいいと思いますと
問われたので適当に選んでやった
お礼ですと
一輪の花を貰って暫く行くと
澄んだ音を立てて花が開いた
女に良く似た小さな少女が
お前じゃなかったのにと泣いた
悪いことをした



長い間探していた本を
古書店の店頭で見つけた
手にしようとした瞬間
どれがその本か分からなくなった
まだ暫くかかりそうですな
灰色の猫顔の店主が言った



骨董屋に入ると
顔の見えぬ店主が
銀色の小物入れを示した
開けてみると小指の爪ほどの拳銃がある
欲しいものに向けて引き金を引くらしい
ただし弾丸は己の心の臓の血だと言う
諦めたら銀のナイフをくれた



道の向こうに誰かがいたので
誰何してみると
お前こそ誰だと言う
答えようとしたが
己が誰なのか分からなかった
黄昏の中で
向こうにいるのも己だと
それだけが分かった
スポンサーサイト



2006.09.01 Fri l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
帰らない
帰れない
もう
そこには

朝焼けも
夕闇も
いま
過ぎてく

旅立つ孤独を
ポケットのなか
忍ばせて

どこまでも
いつまでも
ただ
歩いてく

心の求めるままに



20:不帰
2006.09.01 Fri l 花膳 l コメント (2) トラックバック (0) l top