どこにもかえらない

言の葉遣いになりたい。 たくさんの言葉とたくさんの感性で誰かの心の琴線を響かせたい。 そう思って今日もまた、詩を書いてます。

僕たちのラジオ

僕のラジオは壊れてしまって

君の声が拾えない

潮騒の合間に

微かに届く

昔の歌だけが聴こえてる

真珠のように

繋ぎ合わせて

言葉の意味を掴むけど

僕のラジオは壊れてしまって

君の心が届かない


君のラジオはどこにあるかな

僕の声は聞こえますか

繋げた言葉で

歌を歌って

君に届くよう祈ってる

木擦れの合間に

僅かに届く

それだけでいいと願ってる

君のラジオは動いてるかな

僕の心は届くかな


これはわたしの

これはわたしの身体
蹂躙されても

これはわたしの精神
侵掠されても

これはわたしの記憶
強奪されても

これはわたしの言葉
偸盗されても

これはわたしの想い
冒瀆されても

これはわたしの未来
放擲されても

これはわたしの世界
暴虐されても

これはすべてわたし

夜を写す

いらっしゃいませ
お求めの品は何でしょう
ないものはございませんよ

なるほど
それならば
これがよろしいでしょう

夜を写す写真機です
無骨でありながら繊細な
まさに夜に相応しい一品

赤ら引く朝のひと時も
茜さす昼の微睡みも
玉かぎる夕方の感傷も
すべて烏羽玉の夜に変えてしまう

懐かしく思える旧友も
狂おしく焦がれる恋人も
何気なく行き交う他人さえ
すべて射干玉の夢に変えてしまう

針で穿ったような小さな星の光が
針を落としたような遠い列車の音が
ただ夜の闇でのみ見つかるように

写された光景もまた
夜に変じてこそ分かるものが
あるのやも知れません

ただし一つご注意あれ
これは
光ある世界を夜に遷すもの

被写体がいるべき光を
夜に捕らえて写すならば
その光はさて
どこへ消えますものか

写真機を通して
それはあなたへと

あなたを通して
それは夢の中へと

けれど
これを求むるあなたの心は
光を拒み夜を求める

夢が忍び寄り
闇が侵蝕し尽くせば
かそけき光は呑み込まれましょう

最後の光が消えたならば

夜にすら映らぬ
あなたの影が残るだけ

それでも良ければ
さあ
どうぞお持ちなさい


42:夜写

けれどそれは今も

ユニコーンの鬣のような

白い雲が浮かぶ

混じりけのない蒼の中


腕を伸ばした私の前を

擦り抜けてしまうだろう

ほどけて消えていく姿は

遠ざかって行く聖獣に似ていた


確かに一度は

私の傍らにいたことのある

不思議な感覚に良く似ていた


けれどそれは今も

ときおり

大気の中に溶けて

私の前に現れては消える

金色の風

金色の野原を風が吹く

黄金の稲穂が風にそよぐ

金木犀の花が風に匂う

金の公孫樹を風が舞わせて

金色のセイタカアワダチソウが風に揺れる

金糸雀が風に合わせて鳴く

金烏は柔らかく風をあたため

金星が風の向こうで揺らめく

金平糖のような星々を風がくすぐり

白金の満月に風が調和する


秋色の気配を

風が金色に染めていく


41:金風

いつのまにか

私たちはいつのまにか
何かを失って生きている

いつのまにか消えていた時間
いつのまにか捨てていた思い出
いつのまにか解けていた絆
いつのまにか無くしていた恋
いつのまにか通り過ぎた若さ
いつのまにか溶けていた足元

目にする光景だって
いつのまにか変わっていて
新しいビルの立つ場所に
以前あったものを思い出せない
毎日通った道沿いの
老木がいつ消えたか思い出せない

私たちはいつのまにか
変化に気付かないまま生きている

哀しいことばかりではなくても
切ないことばかりではなくても

いつのまにか
変わっていくものの境目を知らない

いつのまにか重ねられた時間
いつのまにか増えていた思い出
いつのまにか深まっていた絆
いつのまにか始まっていた恋
いつのまにか手にしていた老成
いつのまにか進んでいた足元

目にする光景だって
いつのまにか変わっていて
新しい風の吹く場所の
涼しさを肌で感じたりする
毎日通る道沿いの
花々の移り変わりを感じたりする

私たちはいつのまにか
何かを受け取りながら生きているのだ

庭先に眠りが忍び寄る

秋の夜に集く虫が

もの哀しげに鳴くのを

明りを消した縁側で聴いてた


虫の音の数々

細い月が照らした庭先

零れ落ちる萩の花

眠りにつくあなたに

降り注いでる


今でも覚えてる

あなた教えてくれた

草の葉で作った虫

起きないあなたの上に置いた

切なげに鳴く虫の代わりに


揺れる草の中

誰も音を立てない

だからゆっくり眠ろう


土の中のあなたのように


40:草虫

誘惑の季節

新発売に心躍っちゃう季節

陳列されたパッケージが誘う季節

食べて食べて

あたしを食べて

遊んで遊んで

ぼくらと遊んで

飲みつくしてよ

読みふけってよ

誘惑あまたの季節

だけども待って

もう少し待って

健診結果の紙が来るまで

あたしがあたしであるということ

あたしがあたしであるということ

紡ぐ言葉があたし自身のものだということ

贈る想いがあたしの本心であるということ

笑う目元が強要されたものでないということ

流す涙をこらえるのも意思であること

好みの服を自分で選ぶということ

好きな人を心に思い描けるということ

はやる心のまま電車に乗るということ

はずむ気持ちのまま何かを始めるということ

あたしがあたしであること

ただあたしとして有ることが出来るということ


39:只有

おなじひとりの人間だもの

子どもだって色々あるし
悩みの深さは大人と同じ
子どもだって色々いるし
括れないのは大人と同じ

どんなとこにも世界はあるし
大小なんて関係ないし
どんなとこでも世界はあるし
代償なんてどこにもあるし

人生たかだか数年だって
生まれてせいぜい十数年でも

心の重さは大人と同じ

経験値なんて足りてないし
そんなのだけど大人も同じ
色んな決まりに阻まれてるし
それもやっぱり大人と同じ

近頃の子どもとラベルを貼って
ぼくらをまとめて瓶詰めしないで

心の痛みは大人と同じ

ぼくらはまだまだ子どもだけれど
大人も昔はぼくらと同じ

酔中夢境

雲海を眼下に仙境の趣

朋輩と杯酌み交わせし美酒

酔うて吟ずれば誘われし払暁の光輝

打ち寄する波間に零れ落つる寿ぎや

38:酔吟

異国の言葉

あなたの言葉が分からない
違う国の人みたい
あなたに言葉が届かない
隔てられた画面越し

カタコトでもいいかな
一言でもいいかな

あなたに
ありがとうと
それだけ伝えておくよ

あなたの言葉は分からない
辞書片手でも難しい
わたしの言葉はもどかしい
指先止まる画面越し

雰囲気でいいかな
違っててもいいかな

あなたに
また来てねと
それが伝わればいいね

親と子と

目の届く限りの
世界の中で
君を守っていよう

口を極めて
君のこと
褒め倒しつくそう

だから

安心して
大きくなっていいんだよ

いつか

僕らの目の届かぬ場所へ
僕らの声の届かぬ場所へ
羽ばたいていっても

今この時の思い出を
君の細胞で覚えていて
そして
思い出してくれるように

愛されていると
ちゃんと感じられるように



君の世界を守っているよ


37:極目

ドクハクのコクハク

好きじゃないと思うの
見ればイライラするし
一緒にいればウンザリ
むしろ嫌いだと思うの

なのに

君の好きな歌
耳にしたり
君の乗ってた車
目にしたり
するたび
君を思い浮かべる

君の好きそうな本
読んだ時
君の観そうな映画
見つけた時
君に教えたくなる

これっぽっちも好きじゃないよ
君のことなんて
むしろとっても大嫌いだよ

なのに

どうして笑ってるの

毒を吐いてる酷薄な台詞に
独り言みたいな打ち明けの言葉に

時間は矢のように過ぎるから

まだ大丈夫
まだ大丈夫って
思ってるでしょう

まだ間に合うって
まだまだ余裕って
思ってるんでしょう

気付けばがけっぷち
時間はなくて
飛び込むか
諦めて引き返すか

心の準備もしていないのに

それで満足なんて
得られるつもり?
それで納得なんて
出来るつもりなの?

やれることはやったから
出せる力を出したから
どんな結果も悔いはないって
そう言ってご覧なさいよ

時間があれば出来たって
ちょっと調子が悪くってって
あとで結果にけちをつけても
そんなのただの言い訳よ

まだ大丈夫
まだまだ行けるって
自分に言うならいいけれど

まだ余裕だって
まだ楽勝って
過ぎ去る時間は耳を貸さないわ

だから
ほら
さっさと始めて


(2005/08/31)

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顔面戯曲

目が覚めたら異世界にいた
目の前には白髯の預言者
目にも眩い装備を一式
目に見えて鋭い剣一振り

口を開いた預言者が
口当たり良く言ってのける
口から出たのは淀みない言葉
口車に乗せられて勇者になった

鼻につくような村人の対応を
鼻であしらう同行者の魔術師と
鼻持ちならない学者の男
鼻を明かそうとどんどん進む

耳障りな自慢話の学者と
耳を塞いだ魔術師の声が
耳鳴りのように呪文に変じ
耳元で聞いた手がかりがかすむ

眉唾物の噂話と
眉を顰めたいような話の数々
眉を開いた二人の連れは胡散臭そうに
眉に火がついたと足を速める

頬を染めてる異国の姫が
頬杖をついた魔術師に迫る
頬返しのつかぬ彼を横目に
頬笑みながら置いてけぼりした

顔を合わせた最大の敵は
顔見知りの筈の誰かに似ている
顔から火が出た魔術師も揃い
顔つきを変えて戦いの火蓋

歯を食いしばった苦闘の後で
歯が浮くような学者の言葉
歯に衣着せず斬りつけかけて
歯の根も合わぬ寒さに気づく

舌先三寸の預言者の再来
舌を振るって雄弁に語る
舌先に丸め込まれぬうちに
舌を出して退散と行こう


目が覚めたら布団の中だった

この池が凍れば

この池が凍れば
貴方に会いに行きます
伸ばした黒髪くしけずり
雪と紛う白絹の着物着て
鮮やかな紅さして
貴方に会いに

この池が凍れば
渡って会いに行けます
北風に黒髪なびかせて
吐く息白くけぶる霧となり
喜ぶ頬に赤み差し
貴方に会いに

中途まで歩けば
貴方が会いに来るまで
夜が黒く塗りつぶしても
雪より白い姿のまま
紅い唇に笑み乗せて
貴方を待って

やがて薄き氷が割れて
そこへ導くでしょう
頭上には巨きな冷たい鏡
自身の姿映して微笑むでしょう
底で微笑むでしょう
貴方が見蕩れるよう

この池が凍れば
貴方に会いに行きます


36:氷鏡

記憶喪失

全ての記憶を失くしたら
私は私といえるでしょうか
あなたのことを忘れ去り
自分が誰かも知らぬまま
それでも私といえるでしょうか

足を一歩踏み出せば
右も左も見覚えがなく
どこに向かうか分からずに
何があるかも知らぬまま
それでも歩いていけるでしょうか

鏡に映る顔さえも
自分で自分と分からぬまま
手足は確かに動くのに
それが己と知らぬまま
それでも不安は癒えるでしょうか

全ての記憶を失くしても
私は私でいられるでしょうか
昨日のことを忘れ去り
明日の行方も知らぬまま
それでも私は生きるでしょうか

空色七変化

曇りの日も晴れの日も

あたしは空を愛してる

星降る空も雨降る空も

夕暮れ時も暁時も

宇宙まで届く青も

血に濡れたような赤も

塗り潰した灰色も

染み渡るような濃紺も

照り付ける太陽も

冴え渡る満月も

儚い虹のかけらも

縁だけが光る雲も

尾を引いて消える星

地平線で広がる太陽

穿たれた雲からの光の帯

まっすぐな飛行機雲

朝夕の七色に溶ける空の端

一点に消えていく雲の流れ

音もなく降る霧雨

音を吸い込む粉雪

突き立てるような紫雷

追い立てるような雷鳴

まだ見たことのない極光

まだ見飽きない空の色

あたしは空を愛してる

あたしはこの星を愛してる


35:陰晴

私の言葉

どんなものを書いても

どんなことを書いても

文体を変えていても

法則を変えていても

取るに足らない文でも

酷くシリアスな文でも

一人称の話でも

三人称の話でも

日記でも

詩でも

物語でも

それを読んで

ああ

あの人の文だなと

分かるような

そんな持ち味があるといい

いいえ

ああ

私の文なのだなと

分かるような

そんな味わいがあればいい


34:書味

タイトル縛り

ネタに困っていたら、掲示板でこんなのはいかが、と、提供いただきました。
提案者はアクアさん。
テーマは「詩語」

少しずつお題をいただいているので、この記事は使いまわしですが、余り昔になりすぎて、お題がなんだったか検索するのが手間なので、この辺に持ってきました(笑)


01:幽花
02:風揺(風ハ揺グ)
03:洗夢(夢ヲ洗フ)
04:長夏
05:雨昏(雨ハ昏ラシ)
06:夏木
07:波声
08:星点(星ハ点ズ)
09:茶香(茶香シ)
10:暮蝉
11:疎星
12:残炎
13:暗通(暗ニ通ズ)
14:九夏
15:閑夢
16:如秋(秋ノ如ク)
17:詩魔(これは夏の部から)
18:懐君(君ヲ懐ッテ)
19:青灯
20:不帰
21:他時
22:数尽(数ヘ尽クス)
23:残蝶
24:凝紫(紫ヲ凝ラス)
25:客夢
26:歩月(月ニ歩ム)
27:無奈(奈ントモスル無シ)
28:佳期
29:回看(回リ看ル)
30:桂香
31:天心
32:暗渡(暗ニ渡ル)
33:引雨(雨ヲ引ク)
34:書味
35:陰晴
36:氷鏡
37:極目
38:酔吟
39:只有
40:草虫
41:金風
42:夜写
43:夢裏
44:秋人
45:孤枕
46:入骨(骨ニ入ル)
47:碧落
48:空望
49:半夜
50:地白(地ハ白シ)



以上が、例として挙げていただいた題材なのですが、どうも、ざっと調べたところ、「詩語」を閲覧させてくださるサイトが見当たらないようなので(皆さん、同じ本を参考図書として推奨なさってるので、買え、ということなのだろう(笑))、ひとまず、こちらのお題に挑戦しようと思います。

別サイトでも、お題提供してもらったばっかり。他人頼りだなぁ(笑)


こちらでは、出来れば「タイトル縛り」のアイディアを募集してます。
今まで「五十音」「アルファベット」「漢数字、漢数詞」「和名色」などで挑戦してます。
適度な量で、なおかつ、色々捻れそうな、そんなもの、何かありませんか?(笑)

心のまま

沸き立つのは雲
湧き立つのは泉
そして私の心

溢れ出るのは花蜜
溢れ出るのは夜星
そして私の想い

踊り出すのは小鳥
躍り出すのは仔猫
そして私の夢想

匂い立つのは緑
匂い立つのは夜明け
そして私の言葉

世界に包まれて
喜びが満ちる

そして
私はここで

新たなる話を紡ぐ

恋に似たよな夢十夜

明日で世界が終わると言う
差し当たって
やりたいことも
会いたい人も思いつかず
眠ることにした
終焉が近づく頃に目覚めてふと思った
自分のところにも誰も来なかったんだな



長いこと塔に閉じ込められている
ぼんやりと地上を眺めていると
白馬の王女がやってきたので
ここから出してくれないかと言うと
呆れたように肩を竦めて
塔を蹴り倒してくれた
この場合やはり彼女に恋するべきかと
暫く悩んで顔を上げると
王女は既にどこかへ行った後だった



風が強いので身の軽い彼女は
僕に会いに来られない
僕もまた外に出られない身だ
そんな難儀な恋はやめてしまえと
友人が言ったが
難易度で恋をするものではないと
僕は誇らしげに答えた
その途端
ここ数年彼女と会ってない事を思い出した
すでに彼女の顔も名前も忘れていた



この海岸には死体が流れ着くのですと
隣に立っている男が言った
見ていると遠くから何かが流れてくる
打ち上げられたものは
どう見ても私の恋心だった



ホテルのラウンジで
酒を飲みすぎたらしい
部屋へ戻るエレベーターは
なぜか月に到着していた
目の覚めるほど青い星が
頭上でウィンクしていた
その引力に惹かれて
気づいたときにはホテルのベッドにいた
暫くこの星の魅力から離れられそうにはない



指に目をやると
赤い糸が結んである
これはいわゆる運命というヤツだな
そう思いながら手繰っていたが
一向にその先に辿り着けない
いいかげんくたびれたので
通りすがりの老婆に
糸切り鋏を借りてちょん切った



庭先で小鳥が煩い
見ると電線の上で
一生懸命囀っている
何をそんなに必死なのかと問うと
離れ離れの恋人に
落ち合う場所を電話しているのだと鳴く
電線の意外な利用者を知った



チョコレートが食べてくれと言う
かわいらしい少女の形のそれを
頭から食べるか足から食べるか悩んでいると
じれったそうに頭から飛び込んできた
あっという間に蕩けて全身に甘さが廻る
まるで毒のような恋だと思った



骨董店でティーカップを手にしている
一目見て気に入った
それは喪った片割れを探しているカップだと
顔の見えない店主が言った
それなら私が探してやろうと告げると
ご心配には及ばぬと言われる
気づけば私自身がカップになっていた
仄暗い陳列棚に並んで
甘いお茶を待つ羽目になった



私を抱いているのは
紛れもなく昔の恋人なのだが
どうしても見覚えがない
誰かと問うことも出来ずに
ぬくもりに身を任せていると
一つだけ分かった
あちらも私が誰なのか
分からないらしかった

雨上がりと息吹き

ここに空がある

ここに土がある


昇る太陽が笑んで

昨夜の雨を照らす

濡れた土がひとつ

溜め息を吐いた

揺れる空気は上へ

空を目指して進む

天と地とを繋ぐ

水の線を引いて


落ちたものは上り

上るものは落ちる

そして雲となって

やがて雨に変わる


ここに空がある

ここに土がある

循環の線の中で

生命もまた巡る


33:引雨(雨ヲ引ク)

黒猫と盗人

暗闇に乗じて
黒猫の尻尾を渡って
蔵の中へ
海月のような手触りの闇
くらくらするよな手探りの闇
較べられない眠った品々
眩む筈の目の
暗んでしまう
位の良い物勘で選んだ盗人を
蔵ごと
喰らった
黒猫と夜



32:暗渡(暗ニ渡ル)

ゆるやかに

ゆうるり流れる時間はいつも
あなたと眠った夢に似ている
月にも星にも行かれるくらい
何をも超える心地に似てる
静かに湛えて潤すくらい
遥かな泉の水に似ている

ゆうるり流れる時間はとても
私を浸して癒してくれる

嵐の夜に

あまりに風が強いので

あまりに風がわめくので

夜の道路に立ち尽くす

足を開いて

両手を広げて

風に吹かれて立ち尽くす


要らないもの全て

連れて行け

垂れ込める雲の中

浄化して

どこかの町で降り注げ


あまりに風が強いので

飛ばされそうな身体ごと

全てを任せてみた夜

恋はいつだって

踊り場のない 階段を
転がり落ちて いくように

あなたと わたしは
いつだって

乱暴なまでの 恋をした


真夏の昼の 太陽の
噛み付きそうな 熱のよに

出会った 二人は
急速に

凶暴なまでの恋をした


闇夜に光る 目のように
鋭く尖る 牙のよに

互いが 互いを
喰らいあう

獰猛なまでの 恋をした


どんなに怪我を 負ったって
いくつも傷が 付いたって

わたしは だれかと
いつだって

致命的なほど恋をする


(2005/08/25)

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きみのこころ

天に心があれば

この雨は

誰のための涙か

天に心があれば

この星は

誰のための光か

天に心があれば

この雷は

誰を裁く剣か

天に心があれば

この虹は

誰を渡す桟か

けれど

天に心があれば

痛みすぎて

悼みすぎて

きっと晴れ間は来ぬだろう


天に心があると

思う人こそ

愛すべき人だ



31:天心

だれのものでもないあたし

だれのものでもないきみだから


きみにはしあわせになってほしいよ
でも
それをきめるのはぼくじゃない

きみじしん


きみにはわらっていてほしいよ
でも
それができるのはぼくじゃない

きみじしん


きみにはいきていってほしいよ
でも
それをえらぶのはぼくじゃない

きみじしん

だけど
きみがしあわせにわらっていきてれば
ぼくはうれしい

おぼえていて
それだけでも




だれのものでもなくてあたしはあたし


あたしがきれいになるのは
だれのため

あたしのため

あたしがかしこくなるのは
だれのため

あたしのため

あたしがすてきになるのは
だれのため

あたしのため

あたしのじんせいのしゅやくは
だれのもの

あたしのもの

だけど
あなたがそばに
いてくれてもいい



                     (2005/08/21)


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お茶飲み友達

遠い遠い昔の話

昨日のことみたいにして

思い出や記憶の欠片

まるで今起こったみたいにして

苦しみも哀しみもみんな

喜劇仕立てみたいにして

あたしたち

どんなにおばあちゃんになっても

笑いながらお茶を飲んでる

友達でいられたらいいね

優しく甘い桂花茶で

少し冷える朝には
桂花茶を飲もう
金木犀の香りの
優しく甘いお茶を飲もう

暖かな湯気とともに
部屋に満たされる
丸みを帯びた空気の
優しい甘さに身を委ねよう

窓の外には灰色の雲
羽毛布団の軽さで
街を包み込んでる


肌寒い夜には
あたたかいお菓子を作ろう
桂花茶のシロップに
優しい白い団子を浮かべて

たくさんの花とともに
器に満ちている
丸みを帯びた白玉の
優しい甘さに身を委ねよう

窓の外には静かな小雨
子守唄のリズムで
街を包み込んでる


少し寒い日には
桂花茶で

優しく甘い香りで
部屋を包み込もう



30:桂香

宣戦布告

聖人君子なんかじゃないからさ
売られたら買うくらいの用意はあるよ
慈悲を垂れるほどえらくもないしさ
堪忍袋の緒だって切ってもいいよ

二度あることは三度って言うね
歴史じゃなくても繰り返すんだね
仏の顔は三度って言うね
あいにくだけれど仏じゃないよ

八方美人を自称するけどさ
見落とす方角もなくはないしさ
上手の手から水が漏れるなら
あたしなんて取りこぼしまくり

オトナになりたいと思っちゃいるけど
無礼な奴に良い顔したくないよ
おとなげないなと分かっちゃいるけど
非礼な振る舞いに振り回されたくないよ

悪いけど
他所あたってくんない?

詩われる物語

その回廊を抜けると

あとはもう

誰もいない中庭だけだ

館の主はすでに

遠い異国へ旅立っている


涸れ果てた噴水に

鳥の羽が

色褪せぬまま残されている

手にした剣はもはや

光を失い錆び付いている


赤い緞帳の向こうで

看客が一人

物語の行方を見ている

語られる流れの先

佇む人影はそれを知らない


天幕が廻って月が昇る

銀の紙は

跳ね返して辺りを照らす

遠く貼り付いた塔

舞台の裏から歌が聞こえる


見返った主役が庭を

あとにして

書割の彼方を目指す

伝説にさえ似せて

その先は別の話だが


回廊と中庭を残して

あとはもう

緩やかに幕が下りていく

舞台の主はすでに

別の物語を歩んでいる



29:回看(回リ看ル)

空には月 人には酒

佳月在り 冴え渡る空

嫋嫋たるは虫の音を運ぶ風

はや夢が帰期を告げる夜半

独り微酔で臥せ寝る寓に



空には遮るものがない
ただ白く光る月だけが
静かに夜を照らしている
切なげに啼く虫の声を
さやかな風が連れてくる
独り酒を呑みながら
ほろ酔いで眺めている景色に
仄かに夢が混ざり戻る刻限を報せる
夢と酔いの柔らかなる褥を
仮寓に敷いて微睡みの中へ
あとはただ
月の光の滴る音のみを聴く


28:佳期

孤高の流浪

どこまでも歩きつづけた
汚れたサンダル
足の甲に血が滲む
引きずらないように
偏らないように
まっすぐ平気な振りで
歩きつづけた

いつまでも歩きつづけた
熱を持った指先
割れた爪に泥が詰まる
痛がらないように
憐れまないように
まっすぐ平気な振りで
前を見つづけた

ここで足を止めたら
二度と動けなくなると
鈍く痛む足で
大地を蹴りつづける

どこまでも歩きつづける
辿り着くまでは
いつまでも歩きつづける
倒れ臥すまでは

汚れたサンダルで
ずっと

火曜日の夢

不思議にあなたの夢を見る
火曜日のわたし
目覚めてもなお
隣に気配だけ残して

無造作に活けた花
窓辺に置いたグラス
硝子越しに朝日を浴びて
部屋の中を水と光で満たす

天井で揺れる光に
夢の残滓が過ぎる
続きを見ていたくて
閉じた瞼にも光


遠ざかるあなたの夢を追う
火曜日のわたし
どこだってもう
行かれない世界はないけど

無秩序に並んだ街
身軽に跳ねる月面
鏡越しに姿を見ても
プディングに似て喉を滑る

覚醒に揺れる背中に
夢のしずくを垂らす
続きが見当たらなくて
閉じた瞳にもしずく


あなたの夢を見ている
火曜日のわたし

目覚めてもなお
それだけを覚えている



「火曜日の夢」

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落ちていく浮遊

どうしようもなくて
奈落の底に落ちていく
醜い気持ちとともに
なんとも出来ずに落ちていく

縋るものもなくて
名前もなしに落ちていく
見難い世界の中を
なんにも出来ずに落ちていく

堕ちていく
墜ちていく
どこまでも落ちていく

落ちるしかなくて
失墜感に身を任す
住み難い日々の波間を
なんともなしに落ちていく

いつか激突する日まで
やがて砕けるその日まで


27:無奈(奈ントモスル無シ)

スイート

指輪に大きな
クランベリー隠して
耳元に揺れる
ラズベリー隠して
あなたに会いに行くよ
甘酸っぱい香りを連れて

お財布に一枚
コインチョコ隠して
筆箱に一本
キャンディーバー隠して
あなたに会いに行くよ
甘い甘い恋心連れて

唇にハチミツ
指先にオレンジ
優しくキスをしてね
私ごととろけるほど

胸の中きらめく
恋のハート隠して
瞳の中ゆらめく
甘い炎隠して
あなたに会いに行くよ
大好きと言葉を連れて

可愛い小悪魔

可愛い小悪魔

上目遣いで

拗ねた口調で

甘えてみせる


小憎らしいけど

小面憎いけど

それさえ含めて

可愛い悪魔


きみのその

溢れる笑顔を見たいから

きみのその

喜ぶ声が欲しいから


可愛い小悪魔

ぼくらいつだって

振り回される

楽しげに

月夜の窓辺

月の上

ふわふわと歩く

頭上に浮かぶ

青い星に手を振って

君に合図を送ってみたよ

毎日

カーテンを少しずつ開けて

開ききった窓から

君の窓に光を送る

毎日

カーテンを少しずつ閉めて

締めきった窓には

鍵をかけて散歩さ

月の上

くるりと宙返り

足元に見える

青い星に投げキスして

君に合図を送ってるよ



26:歩月(月ニ歩ム)

一息ついたら?

疲れちゃったら休みなよ
ぼくがフォローできるわけじゃないけど
疲れちゃったら休みなよ
正直最低生きてりゃいいじゃん

今日が駄目でも明日があるし
今期が駄目でも来期があるし
今は無理でも次があるよ

試験も仕事も恋愛も
駄目になっても死にはしないよ
夢も希望も願望も
立ち消えちゃっても死にはしないよ
だけど疲弊は人を殺すよ

疲れちゃったら休みなよ
心も体も休めなよ
そこから新たに歩けばいいじゃん



(2005/08/08)

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楽しいこと

楽しいことは
あっという間
瞬きのように
あっけない間

だけど記憶は
思い出は
長い間
刻まれて

私の宝になるんだ

遠くまで遠くまで

真っ青な空の下を
どこまでも遠くまで行こう
空に線を引いた
飛行機雲に沿って
ここではない場所を
目指して歩いてたら
いつのまにか
たどり着くかも

季節も
時間も
すべてを
擦り抜け
ここから
どこまで
いつまで
いつまでも

白い波間に浮かぶ
緑溢れる小島に行こう
海を開いて渡る
おもちゃの船に乗って
誰もいない場所を
目指して進んでたら
思いがけず
たどり着くかな

昨日も
明日も
すべてを
忘れて
ここから
どこまで
いつまで
いつまでも


雲が生まれる場所を
探しに行こう
波が始まる場所を
目指して行こう

そこには
きみがいるかも

儚い
切ない
すべてを
抱えて
ここから
そこから
いつまで
いつまでも


(2005/08/04)

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旅行前夜

あれは持った?

それは入れた?

忘れたものはないかしら?

持ってかなくていいものはないかしら?

持ち物リストをチェックして

出かける時間をチェックして

いざとなったら

チケットとケータイとお財布

それだけあれば何とかなるけど

大丈夫かな?

大丈夫よね

旅行の前夜はちょっぴり不安

あれとこれとそれからこれを

それからええと

早めに寝よう