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いらっしゃいませ
お探しの品はこれでしょう

掌サイズの小さな鳥かご

小さすぎると侮るなかれ
何でも入る鳥かごなれば

歌う小鳥も大鷲も
羽を広げた孔雀でも

たとえば中に草花入れて
秘密の花園にも出来まする

たとえば中に恋しい人を
住まわせることも出来まする

過去や時間や思い出や
愛や憎悪や心まで

何でも入れてごらんあれ

お色は金と銀の二つ
どちらをお選びになりますか

閉じ込めるなら金のかご
守りたいなら銀のかご

さあどちらを選びます

ただしお一つご注意を

金も銀もどちらのかごも
所詮は同じかごの鳥

それでも良いならさあどうぞ
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2010.08.04 Wed l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
薄暗闇の黄昏時の
町の片隅で扉が開く

此度のお客はどなたでしょう
ないものはございませんよと
店主が昏く笑んでいる

お菓子が欲しいの
痩せるお菓子が
お客の少女のその声で

テーブルの上並んだ瓶が
色とりどりのお菓子を見せる

切なく悶えて身も細る
甘く苦しいキャンディーはいかが

踊り続けたカーレンのように
疲れてしまうチョコレートなら

食べた量だけ痩せていく
小粒で軽いラムネはどうか

星屑まぶして時間を退ける
きらりと光る水飴もどうぞ

但しどれでもご注意を

甘い言葉には裏がある
甘いお菓子には毒がある

それでも良ければさあどうぞ
2009.09.30 Wed l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
探しているお話はどれですか
よろしければ探してみせましょう

ありきたりでない悲恋もの
見たこともない異世界の話
うろ覚えにしか分からない
幼い日に聞いた話
終わらぬままに終わってしまった
未完のままの誰かの話

探してるお話はどれですか
どんなものでも探してみせましょう

見てきたような歴史もの
背中合わせの恐怖の話
いつか書こうと思ったままの
机の中のあなたの話
どんな人でもただ読むだけで
癒され微笑む優しい話

探してるお話はなんですか
いくらだって探してみせましょう

ただし御代はあなたの話

過去の未来の現在の
あなたの話を切り取って
そっくりそのままもらいます

あなたの人生の落丁を
厭わなければさあどうぞ

何でも探してみせましょう
2009.07.15 Wed l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
やあ
これはようこそ
いらっしゃい

お探しのもの
用意してございますよ

これなるは
かつての英雄達が
重宝した金の鈴

行くか戻るか
西か東か
悩んだときには鈴を振る

愛か戦か
選ぶかよすか
迷ったときには鈴を振る

片方答えを口にして
ころんと一振り振ってみる

音が鳴ったら進むべし
沈黙したならやめるべし

ただしお一つご注意を

これなる鈴は気まぐれで
数度に一度嘘をつく

これなる鈴はそれゆえに
時折人を惑わせる

幾多の数多の英雄達は
それゆえ
末路を間違えた

それでも良ければさあどうぞ

輝く黄金をその手に取って
あなたの未来を委ねるならば

鈴は軽やかに鳴るでしょう
2008.12.12 Fri l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
やあ
ようこそ
いらっしゃい
お待ちしていましたよ

あなたにうってつけの品はこちら
願いを叶えることのできる
紫の宝玉の指輪

右の小指でひと撫でしたら
願う言葉を口にして
指を鳴らして御覧なさい

見事宝玉が砕けたら
あなたの願いが一つだけ
この世のものになるでしょう

ただしお一つご注意を

これなる指輪は代償に
大事なものを奪います
どのお一つが無くなるか
それは指輪の気分次第

それでよければ
さあどうぞ

なるほど願うは
大切なものを
奪ってくれるなと
そう仰るか

それならそれで
良いでしょう

指輪は砕け塵と消え
しかしあなたの毎日は
前と変わらずあるでしょう

本当にそれを願うなら
試してみれば良いでしょう

さあ
どうぞ
口にして御覧なさい

指輪が叶えるはただ一つ

さあ
どうぞ
2008.12.10 Wed l 黄昏通り l コメント (4) トラックバック (0) l top
いらっしゃい
気になる品はございましたか

ああ
そちらは「ぬふ」
濡れた布と書きます
お手にとって御覧なさい
しっとりと吸い付きましょう
しかし裏を返したならば
じっとりと粘りつきましょう

それは
あなたに終焉と始まりを齎す布

しっとり愛おしい手触りの面で
包み込んだならば
それはあなたを生まれ変わらせる
胞衣となります

じっとり厭わしい手触りの面で
包み込んだならば
それはあなたを葬り去るための
経帷子となりましょう

布を濡らすのは
涙か血潮か
あなたを濡らすのは
生命の海か
奈落の沼か

お好きな方をお選びなさい
2008.09.26 Fri l 黄昏通り l コメント (2) トラックバック (0) l top
これはようこそ
いらっしゃい

お求めの品は
なんでしょう

求めているのは品ではないと
求めているのは居場所だと

周りは幼稚で薄っぺらいと
見てくれだけで中身がないと

全てが醜く見難いのだと
息が苦しく生き苦しいと

なるほど
さようにお言いになるか

もちろん当然ございます

これなる品は舶来の
精巧極めし写真機なれば
写真に留めし画とともに
いかなる時代も留めし一品

十年百年昔であれど
千年万年未来であれど

お望みの場所を探り当て
撮影せしめてみせましょう

ひとたび閃光光ったならば
御身は望みのその場所へ

ただしお一つご注意を

かつて過ごせし場所の記憶は
ともに過ごせし時の記録は

全て何にも残りません

あなたはもとより居たように
その時代へと溶け込みましょう

ゆえに抱きしその想い
それも煙と消えましょう

そこで醜さを感じても
そこで生きるのが辛くても

それは新たなあなたなる
次のあなたが思うこと

ただしどんなに苦痛でも
たとえどんなに不満でも

やがて再びここへ来れるか
それは誰にも知れぬこと

それでも良ければさあどうぞ

2008.01.25 Fri l 黄昏通り l コメント (6) トラックバック (0) l top
タンニンが染み込んだ水のような
暗い昏い紅の空
こんな夕暮れにはきっと
路地の向こうに
異空間が待っている

薄暗い路地の向こうで手招きしている
暗い昏い笑みの人
その姿を見極めることはきっと
出来はしないのに
きっとそこに立っている

通い慣れた道をいつもどおり帰りながら
暗い昏い路地を見る
こんな夕暮れにはきっと
その向こうの世界から
呼ぶ声が聞こえてくる
2007.11.16 Fri l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top
やあやあようこそ
いらっしゃい
これは小さなお客様
いかなる品をお望みで

クジラが欲しいと仰せですか
もちろん揃えてございます

硝子に陶器
ゴムに布
文鎮
香炉
風船
人形

手乗りクジラも
空飛ぶクジラも
何でも揃えてございます

いやいやそんなものではないと
正真正銘のクジラがいいと
なるほど
もちろんございます

これなる卵はクジラの卵
そうともクジラでございます

汲み上げてきた海水の
中にぽとんと落としたら
あとはむくむく成長し
やがてクジラになりましょう

ただしお一つご注意を
これなるクジラはよく育つ
一晩寝ればふた倍に
二晩寝れば四倍に
八倍そして十六倍
ほんの十日で千倍に

それでも捨ててはなりませぬ
最後のときまで面倒見ると
誓えるのならば売りましょう

守れなかったらどうなるか
クジラは哀しみ荒れ狂い
あなたを町ごと飲み込んで
遠い海へと去るでしょう
深い海へと還るでしょう

それでも良ければさあどうぞ

2007.11.08 Thu l 黄昏通り l コメント (4) トラックバック (0) l top
やあ
ようこそ
いらっしゃい

此度は何を
お求めで

ははあ
なるほど
これは奇異なる
老いる薬をお求めか

年のころなら
十九か二十歳
明るい未来があるものを

一足飛びに
七、八十と
奇異と言わずになんとしょう

若気の至りとは
言いませぬ

若さの過ちとは
申しませぬ

恋は異なもの縁なもの
古今東西恋などは
過つものであるならば
口出しなどは無粋です

もちろん当然
ございます
当店なれば
ないものはない

ここにこれなる
切子の壜は
新月の露を
集めたる

蒼く揺らめく
闇の雫は
陰り落ちたる
極みなり

一口飲めば
ひとまわり
二口飲めば
ふたまわり
十年ぐるりと
老いましょう

ただしお一つ
ご注意を

これなる薬は
新月の
見えぬ光の雫なり

闇の光に引きずられ
ともすれば
月が待ち受ける

三日月色の鎌を持つ
笑みが背後で待ち受ける

それに負けぬと仰せなら
これをばどうぞ
お持ちあれ
2007.09.18 Tue l 黄昏通り l コメント (0) トラックバック (0) l top