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冷たい雨が降る
街の片隅で
非番の死神が
子犬を拾った
雨に崩れた箱の中
濡れた毛並みの小さな子犬

冷たい夜が来る
街の片隅で
非番の死神は
子犬に笑った
あいにく今日のオレは非番で
お前を連れてはいかれない

冷たい雨の中
街の片隅で
非番の死神と
子犬の前に
一台の車が停まり
震える子犬を抱きしめる

冷たい夜の中
街の片隅の
非番の死神は
子犬から去る
せいぜい優しい人に飼われて
何年も後に会えばいい

冷たい空の中
街の片隅で
非番の死神は
家路へと着く
あたたかい愛と部屋の中
子犬は眠りに就いている
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2011.11.09 Wed l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
花火を観にいこう
君が誘った夏の夜
川沿いの道二人で歩く
夜の風が涼しく吹いて
空の星が優しく光る

着いたのは湧水の泉
水辺の樹には白い花
君が両手で優しくゆすると
白い花が水面に落ちて
空の星とはじけて光る

星と花とで出来た花火
水中で光る不思議な花火
音も立てずにいくつもはじけて
泉の水は清らに澄んで
僕らの顔を優しく照らす
2011.08.07 Sun l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
恋人と温泉旅行に出かけた。
温泉から上がって部屋でくつろいでいると、恋人のバッグで電話が鳴った。
いつまでも鳴っているので出ようかとバッグを覗き込むと
トートバッグの底に光るナイフを見つけた。
見なかったことにした。
電話はいつまでも鳴っている。



散歩に行くと言い残して部屋を出た。
最終電車で逃げ帰ろうとしたが、次の駅が終着駅だった。
仕方なく戻ることにした。
一駅分歩いて疲れたが、駅に恋人が待っているのを見て冷や汗をかいた。
どこまで言ってたの、と無邪気に問う恋人の、バッグから覗くスカーフがナイフをくるんでいるのが見えた。



帰り道で雨が降り出した。
私、折りたたみの傘を持っているのよ、と恋人が言ってバッグに手を入れた。
スカーフの中の柄を掴もうとしたので、慌てて止めた。
もうちょっとだし走って帰ろう。
血の雨に降られるよりは、雨に濡れたほうが百倍マシだ。



冷えた体を湯で温めることにした。
団体客が疲れを癒しに入りに来ていた。
浮かない顔をしているね、と一人の男に言われたのでわけを話す。
それならこれを持っていきなと、蛇使いが蛇の卵をくれた。
南国の果物に似た匂いの卵を持ったまま、温泉を出て部屋に戻る。
恋人が誰かに電話をしていた。



部屋に戻ると恋人が待ち受けていた。
遅かったのね、と笑いながらお茶を勧めてきた。
緑色のそれは、お茶というよりも入浴剤入りのお湯のように見えた。
毒々しい色の湯飲みから目をそらし、こんなものを貰ってね、と蛇の卵を見せてみた。
恋人は大きく悲鳴を上げた。



卵が割れると中から暗闇が出てきた。
部屋中が真っ暗になった中で恋人に問う。
お前のバッグの中に入っているナイフは何なのだ。
何のこと、ととぼけた彼女はぱくりと蛇に飲まれてしまった。
とたんに暗闇が弾けて、星空のような一振りのナイフだけが部屋に落ちていた。
柄に蛇が巻きついている。



巻きついた蛇がナイフを飲み込んでしまった。
取り返しのつかないミスをした気になったが、どうしようもない。
蛇が近寄ってきたので、近くにあった箒で庭へと掃き出した。
真っ暗な庭先に、蛇使いが立っている。
金色の瞳がこちらを見て光っていた。



さあ、サーカスへ出かけよう、と蛇使いは言った。
賑やかなジンタが庭先に流れてくる。
彼女はどこへ行ったのだ、返してくれと言うと蛇使いは笑った。
鶏や牛を捌くみたいに君を捌いて食べようとした女をかい。
それでも恋人のいない世界は灰色なのだと訴える。
蛇使いの腕に巻きついた蛇がするすると天に伸びて、空中ブランコになった。
一緒に行けば教えてあげようと、蛇使いが誘う。



手を取ろうとした途端、音楽が止んだ。
どうやら時間切れだ。
君はどこまでも草食らしいね、と蛇使いが笑った。
草を食べるのに夢中で、目の前に大きく開いた赤い口があることに気づかない。
だが罠を回避する勘と、出くわさない運は持っている。
理解できずにいると、ロープは蛇に戻り、赤くぬめる口を開けた。
あっという間に飲み込まれてしまった。
運と勘はどこにあるんだろう。



キスの感触で目を覚ますと恋人がいた。
野原に恋人と二人きりでいたらしい。
ラベンダー色の空が見える。
お寝坊ね、と恋人が笑ったがそれどころではない。
あのナイフは何だったのだと訊くと、あなたは誰と来るつもりだったのと訊き返された。
ジンタの曲が鳴ったが、出所は恋人が持っていた電話だった。
促されて耳に当てると、ここにいない恋人の最期の声がした。
ここにいる恋人を見ると、血まみれたナイフを舐めて笑っている。
いつの間に入れ替わったのだったか。

次に目が覚めたとき、隣で寝ているのはどちらの恋人だろうか。



2009.10.19 Mon l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
気配がするので起きてみると
枕元に殿様がいる
いかがなさいましたかと訊くと
悋気に惑わされおぬしを斬ってしまったと言う
ご案じ召されますな、これこの通り成仏しました
そう答えて差し上げると殿様は消えた
これでよく眠れる



蜆の棒手振りをしている
おくれと声がして女が立っている
酔いどれ亭主にね、と
買って行ったが
あの女の亭主は5年も前に死んでいる
そういえば、あの女も昨年死んだのだった
桶の蜆は減っていた



夕暮れ時の橋のたもとで小僧が泣いている
どうしたのかと問えば
川に落し物をしたのだと泣く
そう深い川ではなかったので
何を無くしたのだ、探してやろうと言うと
小僧はのっぺらの顔を指し示した
おいらの顔さ



花街の話である
朝霧と名乗る女に出会った
妾と恋に堕ちておくんなんし
女はそう言って私を手招く
ふらふらと近寄ったが
触れることは出来なかった
名前のような女だった



花街の話である
昼顔と名乗る女に通った
久しぶりでありんすね
恋ひてか寝らむ 昨夜(きそ)も今宵も
そう詠ったあとで
女は花になって消えた
白い花が涙で濡れていた



花街の話である
夕凪と名乗る女が笑った
ぬしさまはご存知でありいせんね
嵐が来れば凪は泡沫
女に抱きしめられた瞬間
あっという間に溺れてしまった



指物屋をしている
鑿が滑って指を切った
作りかけの煙草盆の上に
赤い牡丹が咲いた
同時に哄笑が響いた
大店の女将さんが買っていったが
旦那の愛人に贈るらしい



袋物屋をしている
古着を解いていたら
襟から手紙が出てきた
読むと昔の女が俺に宛てた手紙だった
引き裂いて全ての袋に縫い合わせた
買っていった娘は全て
良いところに縁付いたらしい



下駄の鼻緒が切れてしまった
提灯の火も消え月も隠れた
さても困ったことかなと呟けば
もし、と背後から声がする
よければこれをお使いなさい
下駄の片方を手渡された
雲が切れて去っていく唐傘オバケが見えた



外が賑やかなので覗こうとすると
婆様に止められた
出ちゃならねぇ、あれは百鬼夜行さ
取って喰われてしまうよ
言いながら自分は楽しげに踊って出て行った
毎回自分だけ楽しそうだ
いい加減成仏してくれないと困る






2009.07.28 Tue l 一枚の茶葉 l コメント (2) トラックバック (0) l top
その日二人は
海辺で出会った
羽持つ男と
鰭持つ女

その日二人は
恋に落ちてた
波打つ際(きわ)の
境を越えて

朝日の昇る波間で見つめ
月の滴る浜でキスした

その日二人は
海辺で出会った
白い天使と
銀色人魚

けれど二人は
海辺で別れた
空の住人
海の住人

天使じゃないさと男が言って
人魚じゃないのと女が言った

そして二人は
海辺で別れた
波打ち際で
一つキスして

そして二人は
笑って去った
青と白との
海と空とに

白い小鳥と銀の魚が
消えてそれきり浜辺は眠る

2008.04.24 Thu l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
好きだよ

大好き

だぁいすき

なによりも

誰よりも

君のこと

好きだよ

大好き

だぁいすき

笑わないで聞いてね

君が好きで

毎日が嬉しい

君が好きで

明日が楽しみ

好きだよ

大好き

だぁいすき

自分までも

好きになる

優しい気持ちに

なれるんだ


2008.04.11 Fri l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
妖艶に誘う

花の乱舞

艶かしい笑み

闇を隠す

爪に似た月

疵を付けて

切り裂いた空

悲鳴をあげ

滴り落ちる蜜

紅の色味

手招きするは

過去の亡者

哄笑は夜に

溶けて広がる

緋色に染まる

白磁の肌

濡れそぼる瞳

硝子の様

眠れし骸

魂を囚われ

咲き誇る桜が

絡め取る心

濃厚に香る

紅き夜に

舞い散りし桜

闇を隠す
2007.03.23 Fri l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
心残りはありますか

何かに未練はありますか

去っていく彼を掴み損ねた手

出しそびれたままの手紙

仲直りせずに遠くなった友

涙を呑んで別れた校舎

買わぬうちに消えたおもちゃ

続きが気になったままの本

遠い昔に綴った日記

心残りはありますか

名残惜しさはありますか

これから先へ続く人生

確立してきた今の自分

まだまだ尽きない創造の泉

まだ出会わない幾つもの出会い

今日の夜空と明日の夜明け

見たことのない景色とシーン

未来という名の次の一秒


だからまだ

心残りはありすぎて

2007.02.12 Mon l 一枚の茶葉 l コメント (0) トラックバック (0) l top
旅をしている
どこまでも
どこかへ
いつまでも
いつかへ

辿り着く先を
誰も知らない
待ち受けるものを
誰も知らない

あてのない
風まかせ
足まかせ
気紛れ
気ままな
旅をしている

手にしたトランクには
日記代わりの手帳と
古い古い切符を
それから
旅先で出会う
いろんなものを

遠く世界の向こうには
自分の
誰かの
背中が見える

その向こう側には
なにが見える
なにが待つ

それを探しに

寄り道したり
回り道したり
ときに
背中に背を向けて

旅をしている
どこまでも
どこかへ
いつまでも
いつかへ

そして
いつか背中の向こう側へ
2006.11.27 Mon l 一枚の茶葉 l コメント (2) トラックバック (0) l top
遠い遠い山の奥
水が生まれて流れる場所
深い深い淵の底に
今は亡い夢が眠る

静かな夜の水面
天高い月が揺らめいて
浮かび上がる幻も
吐息のように消える

落ちて来る雫が
広がる波紋を呼ぶ
震えるものはただ
世界を隔てる水面だけ

閉ざされた瞼の
奥に眠る双眸を
もう誰も見ることは叶わない


遠い遠い森の中
水が生まれて始まる場所
深い深い淵の下で
今もまだ夢が眠る

明けゆく夜の空を
映すよりもさらに深い
悲しみの色をたたえては
涙のように滲む

零れ来る花弁が
時間を揺り起こす
憂えるものはただ
世界を隔てた水面だけ

噤まれた唇の
奥に潜む言葉を
もう誰も聞くことは叶わない
2006.06.07 Wed l 一枚の茶葉 l コメント (3) トラックバック (0) l top